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 2016年12月14日 ニュース

 「いいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」

 映画に時折出て来る台詞である。返答は、おしなべて

 「悪いニュースだ」

 ということになっている。そこで、こんな話になる。

 「巨大な彗星が地球にぶつかる事がはっきりした。地球は破壊される」

 それは一大事である。おい、俺たち、それに俺たちの家族が助かる道はあるのか? そういや、いいニュースがあるっていってたな。何か手段があるのかも。

 「じゃあ、いいニュースは?」

 「うん、人類は全滅する。全人類が初めて体験する完全な平等社会が到来するのさ」

 映画なら、そこから人類を救い出す努力が始まるのだが、それは映画に任せたい。

 で、である。実は、私にもいいニュースと悪いニュースがあった。恒例に従って、悪いニュースからご報告する。

 昨日のことであった。朝から出かける用事があり、車で2件回って昼食に帰宅した。午後にも用事があり、再び車で出かけた。
 訪ねた先は留守だった。社長に電話をすると

 「申し訳ない。今日は社員全員で即売会に出ているんですわ」

 となれば仕方がない。では、あそこに行ってみるか。車に乗り込んだ私はキーを差し込み、スターターボタンを押した。

 ブルブル、ブルッ、ストーン

 かかりかけたエンジンが停止した。そうか、スターターボタンを押すのが短すぎたか。再度、スターターボタンを押す。

 ブルブル、ブルッ、ストッ

 あれ、かからないな。3度、4度試しても、エンジンは一向に目覚めてくれない。おいおい、ここまではスムーズに走ってきたのに、突然何が起きた?

 同じ事を繰り返しては、バッテリーがあがりかねない。つい10数分前までは何ともなかったのだから、これは車の一時の気まぐれに過ぎないはずである。
 車を買った横浜のディーラーに電話をした。

 「ということで、車が指導せずに困っているんだけど」

 私の説明を聞いたディーラーのメカニックはいった。

 「始動システムがおかしくなっているようですね。申し訳ありませんが、修理するほかないと思います」

 ついさっきまで何ともなかったんだぞ。BMWの心地よい走りを満喫しながらここまで来たんだぞ!
 とはいえ、動かないものは動かない。動かない車は、単なる鉄くずである。修理か。本来なら、横浜のディーラーに持ち込みたいのだが、動かない車をしょっていくわけにもいかない。やむなく、いつも御願いしている市内の修理工場に電話をして運送用のトラックを出してもらった。

 修理工場に着いて車を見てもらった。

 「エンジンのバルブを動かすモーターがおかしくなっているようですね」

 はーん、そういえばもう11万2000qを走り抜いたお年寄りである。経年劣化でモーターがおかしくなっても致し方ないのかも知れない。BMWのバルブトロニックエンジンは、エンジンのバルブを精緻に操作することで燃費と走りを両立させた優れものである。これだけ長距離を走れば、まあ、バブルを動かすモーターがおかしくなることもあろう。

 「分かった。じゃあ、修理してください」

 その程度の故障だと思っていた。モーターが壊れたのならそれを取り替えれば済む。あるいは、配線が劣化してモーターを正常に動かしていないこともあり得る。であれば配線の修理だけで済む。

 「いや、これはエンジンのヘッドを外さないと修理できないので、うちではできません。ディーラに持ち込むことになりますが」

 「それでも修理しないと乗れないからねえ。御願いします。で、どれくらい費用がかかるかなあ」

 困りながらもきちんと財布と相談する。まあ、私も並みの男である。

 「うーん、場合によっては30万、40万かかるかも知れませんね」

 その時、私の表情は変わらなかったはずである。いや、変わらないように努力した、といった方が正確かも知れない。なにしろ、その時私の周りには鏡はなく、自分の表情を自分で見ることは不可能だったのである。
 だが、例え表情は変わらなかったとしても、内心は突然の疾風怒濤に襲われていた。

 「ナヌ、30万円!? そんな金、どこにある!」

 話を聞くと、翌日、つまり今日、ディーラーに運んでいって見積もりを取ってくるという。それで修理金額が決まる。明日、つまり今日の夕方までには結果が出るだろう、とのことだった。

 「で、見積もりをしてもらうのに3万円ほどかかりますが」

 ナヌー! 見積もりを出せるだけで3万円!? そんな商習慣は初めて聞いたぞ!!
 聞くと、エンジンヘッドを外さねば見積もりができず、その作業工賃がその程度かかるというのだ。だってこちらは、その見積もりを元に修理を依頼しようというのである。修理をしてもらうためにまず3万円を払う? まるで、修理をしてもらう権利を買うのに3万円かかるようなものではないか。それって、不当な収奪という言葉にピッタリだと思うけど。

 だが、鉄くずと化した愛車で困っているのは私である。修理してもらわなければ車が使えないとしたら、いかに不当な要求であろうとも飲むしかない。

 12月で車検が増え、代車が1台もないというその修理工場で、社長さんが

 「私の車でよければ使ってもらっていいけど」

 とどでかいワンボックスワゴンを貸してくれた。トヨタの高級車で、

 「専らスキーに行くのに使ってるんで、スタッドレスも履いてます。保険も振るに入っているので安心して乗っていてください」

 という。社長は、一緒に食事に出かけたこともある私の友である。彼は酒が飲めないので、食事に一緒に行くのに便利な人でもある。

 ということで、どでかいワゴンを借りて帰宅した私の心は千々に乱れていた。来年は車検の年である。必要経費は20万円か、あるいは車が古くなったので30万円かかるか。タイヤもそろそろ限界だ。来年は11万ほどかけて新しいタイヤに取り替えねばならない。それに加えて、この修理費。

 「新車を買っちゃうか」

 というのが1つの選択肢である。買うのならBMW320dMスポーツしかない。現行の320は何度も乗ったが、ノーマル車はシートが薄っぺらく、長距離だとケツが痛くなる。レザーシートの質感も安っぽい。シートの出来から判断して、いまならMスポーツしか選択肢はない。

 だが、来年には姿を現しそうなニューモデルはカーボンファイバーを大幅に採用し、車体の軽量化を図っていると言われていいる。車体が軽くなれば燃費も走りもよくなるはずだ。だから、買い換えるのなら次のモデル、とずっと考えてきたのである。
 それを、いま、買い換える?

 では、3年乗れる中古車にしようか。であれば、ゴルフのワゴンタイプがいい。

 いや、いっそ、ゴルフの新車を買っちゃうか。そして10年乗る。そしてBMWに乗り換える。とすると、次にBMWに乗るのは77歳か……。

 どれが最適解なのか。乱れた思いが一点にまとまったのは、実は今日である。

 「修理して乗る」

 今回はエンジントラブルである。であれば、修理すれば当面はエンジントラブルはない。5年、6年は充分に乗り続けることができるはずである。それから買い換えれば、次期モデルの後記型を買える。初期トラブルへの対策がほぼ終わったあとの車を買えば、故障フリーで使える確率が高くなる。
 これしか選択肢はない!

 でも、だ。修理代はいったいいくらかかるのか? 今日夕刻になっても連絡がなかった。こちらから電話をすると、

 「ディーラーがまだやってくれていないんですよね。分かったらすぐに連絡します」

 修理工場が運び込んでくれたのは前橋のBMWディーラーである。
 おい、ユーザーがこれだけ困っているのに、丸1日たっても見積もり作業をしていない? やむを得ない事情があるのかも知れないが、私の信頼度はがた落ちである。
 とはいえ、横浜のディーラーに運べない以上、そこで修理するしかない。

 ちゃんと修理しろよ、前橋の糞ディーラー! 

 あそこ、受付の女の子はすこぶるチャーミングだったのになあ……。


 という悪いニュースのあとは、いいニュースである。あ、いい、というのは、あくまで私にとって、ということでしかないが。

 あの、製作中だったDACから、今日、音が出た。自作のDACが初めて音楽を奏でたのである。これを祝わずして、何を祝う?

 朝から、一緒にDACづくりを始めたMさん宅にお邪魔した。音が出ないまま放り出してあった我がDACを完成させるためである。
 放りっぱなしにしていたDACを、Mさんは面倒を見ていてくれた。私の作業で生じた配線の間違いを見つけて修理し、

 「一瞬、音が出た」

 というメールを頂いていた。ただ、音は一瞬だけ出て、その後はウンともスンとも言わなかったというコメントも付いていたが。

 しかし、一瞬でも音が出たのであれば、可能性はある。

 「私なんて、DACチップを買い増してやっと音が出たんですから、可能性は大きいですよ」

 というMさんに励まされ、ご指導受けながら朝から作業をした。
 クリスキットを沢山作った経験からすれば、このような症状が出る時、最大に疑うべきはハンダである。一見、ちゃんとハンダ付けができているように見えて、実は不良ハンダになっている箇所がある。
 今回もそれではないか。私はほとんどのハンダポイントをハンダごてで温め直した。ハンダが付きすぎていると思われるところは、ハンダ吸い取り線で吸い取った。

 「一番疑わしいのはここじゃないかと思うんですよ」

 とMさんが指摘したのは、DACチップである。前にも書いたが、ハンダ付けするべきところがチップの裏側にあり、ほとんど神頼みでハンダ付け作業をするしかないところである。
 Mさんの指導に従い、フラックス液を塗って新にハンダを流し、余分なハンダを吸い取り選で吸い取った。これ以上できる作業はない。

 「じゃあ、音を出してみますか」

 というMさんの一声で、我がDACはアンプやCDプレーヤーと接続され、電源が投入された。

 「出ませんねえ」

 Mさんがいった。確かに、ウンともスンとも言わない。沈黙は金というが、このような際の沈黙はくず鉄にも劣る。

 「出ませんねえ」

 といいながら、信号の入力端子をさわってみた。

 Mさん、これ、外れてる。音が出るはずはありません」

 で、ハンダ付けをやり直す。再び音出しをする。でも、出ない。

 「やっぱり出ないなあ」

 この時も、やっぱり入力端子をさわってみた。すると、である。突然、ジャズの喧噪が部屋を充たしたではないか!

 「出た!」

 どうやら、原因は入力系統にあったらしい。そこが正常に接続されたら、ブリリアントなトランペットの音が鳴り響いたのである。
 ヤッター!

 とはいえ、不可解な症状も残った。電源を投入して約45秒間は、DACから音が出ない。先ほど音が得なかったのは歩、この45秒のためだったのだ。沈黙を保つ。その時間が経過すると、突如働き出すのである。

 「なんでこうなるんですかねえ」

 「うーん、何でこうなるんですかねえ」

 分からないことは分からない。私だけでなく、我が師であるMさんにも分からないのだから、私に分かるはずがない。だが、音が出たことだけは確かである。そして、電源投入から45秒たてば音が出ることは、何度も実験して確かめた。

 「ま、不可解ではあるが、音が出たということでいいとしておきますか。そもそも、Rapberry Piは電源投入から立ち上がりまで2分近くかかるから、実用上は問題ないでしょう」

 ということにした。
 とりあえずはDACづくりに成功したのである!

 まあ、問題含みの成功だから、我が家のオーディオシステムの一部として使った時、いまよりいい音が出るかどうかは補償の限りではない。ひょっとしたらどこかに問題を抱えていて、とんでもない音が出て来るのかも知れぬ。
 だが、とりあえず音が出た。それをもってよしとするのが、今日の私のいいニュースである。



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