●日誌一覧

シネマらかす

グルメらかす

音らかす

旅らかす

スキーらかす

事件らかす

 2014年2月1日 朋あり

 朋あり遠方より来る、また楽しからずや

 夕刻、後輩のN君が、突然尋ねてきた。知らなかったが彼は山に登り、今日は赤城山に登って温泉に浸かったあと桐生まで足を伸ばしたのだという。

 「元気そうですね」

 彼とは桐生に来て以来会ってないから、かれこれ5年ぶりの再会である。

 「おお、久しぶり。飯ぐらい食ってくだろう?」

 迎える側は、その程度の嬉しさは表さねばならない。

 「いや、今日は車なんで、御茶をいただいたら失礼します」

 というわけで、御茶を挟んで30〜40分雑談した。

 となると、話題は限られる。
 会社——

 「いや、偉くなる能力はあっても経営する能力はない連中が経営陣を占めてますからねえ」

 「とにかく、目先にある課題を片付ければ仕事をした気になるヤツばかり。目先の仕事をそのように片付けたことが3年後、どんな結果をもたらすかなんて想像する能力もない。でも、目先の仕事を片付けた、って評価されるんだから」

 「経営の『け』の字も知らない連中ばかりですからねえ」

 私が現役で会社にいたときと同じじゃないか。

 「ねえ、歴代の社長が情実で人事をしちゃってますから、そうしかなりようがないでしょう」

 さて、私の企業年金は大丈夫なのか。暗い話はとりあえず終わりにしよう。

 で、このN君、前橋にいる我が社の群馬県代表とも元同僚である。そこに、17日月曜日、仕事で行くらしい。で、その群馬県代表から電話が来た。

 「ということで、その日は伊香保温泉に行こうと思っているのですが、安堂さんもどうですか?」

 17日は平日である。

 「誘ってもらってありがたいが、私の仕事は?」

 「夕方からだから、大丈夫ですよ」

 上司からの業務命令である。というわけで、N君とは17日、伊香保温泉で語り合うことになった。
 業務命令だから、会社の金を使って温泉で遊べる……、というわけには行かないわな、きっと。


 昨日のことである。
 定例に従って、整形外科に足を運んだ。腰の薬を出してもらうためである。
 一度書いたかもしれないが、整形外科とは不思議な病院である。診察を受けて処方箋を書いてもらうと、590円のお金を取られる。ところが、そのついでにリハビリ治療(ここは電気で筋肉をぶるぶると震わせる治療をする)を受けると、合わせて530円で済む。
 
 「おかしいよね」

 と受付の女性にいったことがある。どうでもいいがこの女性、院長さんの奥さんである。

 「おかしいですよね。でも、制度がそうなっているので」

 いや、そんなことは今日の主題ではない。
 ということで、昨日もリハビリ治療を受けた。久しぶりに、若いお姉ちゃんが私の世話についた。

 「あれ、君、スマートになったんじゃない?」

 久しぶりに彼女を意識した。それに私、この女性と言葉を交わすのは、多分初めてである。初めてを初めてと思わせない話術も、私の得意とするところである。

 「えーっ、分かる?」

 ん、「分かる?」? 普通、こんな場合は「分かりますか?」というのではないか? でも、まあ、聞こえなかったふりをしよう。

 「だって、顔はほっそりしてきたし、腰にくびれも出来たし。何か、ずいぶん美人になったぜ。でも、ひょっとしたら病気でもしたのか?」

 「病気なんかしないよ」

 うん、ここも「しませんよ」というのが正しい。

 「生活をちょっとばかり規則正しくしたら、なんかこうなったんだよ」

 姉ちゃん、と俺が言うからには、君、女性だよな。その言葉遣いは……。

 「ほう、そんなに不規則な生活をしていたの?」

 「ちょっと、3ヶ月ばかり遊んじゃってさ」


 君はどう見ても二十歳そこそこ。俺、64。ため口をきかれる覚えはないのだが。

 「悪い遊びでもしていたのか?」

 「いや、時間があるとゴロゴロ寝っ転がってテレビを見ておやつを食べるとか、そんなんだよ」


 私、彼女と会話を進めるためには、ため口に慣れなければならないらしい。

 「それをやめただけでそんなになったのか。偉いな、君は」

 ここから、どうしてそんな方向に話がずれたのか、記憶は定かではない。

 「ねえ、スキーなんかやるの?」

 「おお、スキーは大好きだよ。それが、腰が悪くなってここに通っているぐらいだから、ゲレンデに出るのは怖くて、もうできないかも知れないけどな」

 「そうなんだ」

 「だけど、君がこれほど美人になったんだから、腰が丈夫だったら『スキーにでも行くか』って誘うんだがな」

 「いや、オッサンに誘われても

 「それはいいが、3ヶ月前なら、君にスキーに誘われても、俺は『滑るより転がる方が速そうなヤツに誘われて、その気になるか?』って、こちらから断ってたけど、いまじゃ、腰さえ良ければ『スキーに行こうよ』って俺から誘いたい気分だ。君、綺麗になった。これからも頑張れ」

 彼女、まんざらでもなさそうな顔をしてニッコリ笑った。なあ、褒められりゃ、誰しも嬉しいモンだ。豚もおだてりゃ木に登る、って。

 ま、俺がスキーに誘うことはないが、木に登ってもっと綺麗になってみろ。


 という会話を、帰り際、受付の院長の奥さんに伝えた。

 「あっ、そう。喜んでたでしょ、あの娘。いいこなのよ。それに綺麗なのよね。4月からは常勤になるの」

 「ああ、そうなんだ。でも、あの歳で、俺に向かってため口をきくか? 敬語の使い方なんて縁のない暮らしをしてきたんだろうな。うん、俺に3ヶ月任せてくれれば立派に矯正してマイ・フェア・レディにしてやるけどね」

 「えっ、それは……」


 分かってる、分かってる。私にもその気はない。最後の一言は、言葉の勢いというものですよ。

 が、例え瞬時であれ、私の言葉で幸せになった女の子が一人でもいたということは、きっといいことなのである。善行を施した1日であった。

 

前の日誌                             
無断               メール