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 2013年11月7日 まあ、許されよ

 昨日の日誌で、高い金を払いながら、口に入れたのは偽装された食品だったと気がついたヤツはいなかったと書いた。
 ところが、今日出た週刊文春を読んでいたら、いたんだね、気がついた人が。

 出された絞りたてのフレッシュジュースを口にし、

 「これ、違うんじゃありません?」

 とクレームをつけた。ところが、

 「何をおっしゃる。これは、絞りたてなんです」

 と、厨房では紙パックからコップにジュースを注ぎながら、堂々と答えたホテル(レストランだったか?)があったとのことだ。

 まあ、こうなれば、立派な詐欺罪である。
 いや、ここまでこなくても、一連の問題はすべて詐欺である。恐らく、原価をもっと下げて利益を膨らませろ、という上の指示に忠実に従ったサラリーマンシェフが増えちゃったということなのだろう。

 客を一律に味音痴と決めつけたことを、まあ、許されよ。

 それにしても、だ。ああ、料理の世界から職人がいなくなる。
 客が唸るような料理を出して、美味さに絶句する客をみてニヤッと笑う専門家がいなくなる。
 採算を度外視しても、きちんとした料理を出すのが俺たちの矜持だ、との誇りを捨てない料理人がいなくなる。

 金はあるが味は分からない客が増えたためであろう。

 本来、料理人と客は、料理を真ん中にして対立する。
 価格以上の味を出せたら料理人の勝ち。

 「おい、この料理は何だ! みそ汁で顔を洗って作り直せ!」

 と怒鳴ったら客の勝ち。
 そんな対立の中から、より優れた料理が生まれる。

 味の分からぬ客が増えた。であれば、料理人が堕落するのも仕方がないともいえる。サラリーマンとして、会社の利益が増えるよう工夫する料理人が評価される時代。
 責任は、無責任な客にもある、と私は思う。


 桐生の居酒屋に、マッシュルームのセゴビア風、を教えたことがある。しばらくして再訪すると、

 「あれ、美味いんで店で出してます。食べてみてください」

 と一皿持ってきた。この皿は無料だったのか、それともきっちり料金を取られたのか、確認しなかったので分からない。

 が、まあ、そんなことはどうでもよろしい。
 一口食べた。

 「おい、これ、味が違う!」

 店主を呼びつけつつ、皿の中をのぞき込んだ。マッシュルームの脇に、何かがある。それも大量にある。

 「おい、何を加えたんだ?」

 「ああ、自分流でイカを加えたんです。どうです、一段と味が引き立つと思いませんか?」

 思わない。言われてみれば、確かにこれはイカの味だ。
 イカにはイカを美味く食べるためのの調理法がある。が、ここに加えてはだめだ。

 ほとんど味がなく、歯ごたえだけを楽しむマッシュルームがあり、それを支える上質なオリーブオイルの香りと甘さ、ニンニクの香りがそれに乗り。塩と胡椒が全体を締める。
 こうして、きりりとした味が引き立つ。

 その中に侵入したイカの味は、単なる雑味である。その、個性溢れる香り、味、歯ごたえが、他の素材をすべて殺し、自分だけを主張する。ここには、マッシュルームが存在する意味がない。

 私は、

 「これは不味い!」

 と切って捨てた。その料理人の料理に、期待が持てなくなった。まあ、それまでも、それほど美味いとは思っていなかったが。
 しばらくして行くと、やはりメニューに掲げられていた。他の客が注文するのだろう。

 恐らく、そのような客がもう少し金を持てば、一流ホテル、レストランでの食品偽装を支えることになる。そうして、悪貨が良貨を駆逐する。


 夕方、瑛汰から緊急の電話があった。

 「あのさ、ボス、すっごくいいことがあってさ」

 声の隅々に歓びがほとばしっている。

 「俺の書いた読書感想文がさ、鶴見区で一番になって、横浜市で佳作になったんだ。それで、なんか、文集に載るんだって。先生が電話してきてさ」

 ほう、お前が書いた読書感想文が評価された。

 「そうか、それは良かったな。偉い、偉い。瑛汰は沢山本を読むからな。だから、そんないい作文が書けるんだわ。ほんとに良かったな」

 はっ、こいつ、あっさり私を抜き去った。
 私の作文が学校で評価されたのは小学校6年の時である。しかも、その時限りで、中学生になったら、誰も唾さえひっかけてくれなかった。私の文章力は、その程度のものである。

 それを、小学校1年生で、横浜市のレベルで佳作に入る。
 立派なものである。

 「瑛汰、そりゃあお祝いをしなきゃな。何がいい?」

 2時間ほどして返事が来た。

 「あのさ、歴史の漫画買って」

 そういえば、昨今は東大受験生も、漫画で歴史を学ぶ時勢である。瑛汰が読んで悪かろうはずがない。

 「よし、お祝いにプレゼントしよう」


 「あのしゃ、璃子ちゃんは?」

 電話の向こうで、璃子が割り込んできた。

 「璃子はだめだよ。璃子は佳作になってないんだから」

 瑛汰の声も聞こえる。

 「大丈夫だよ。璃子ちゃんもお兄ちゃんみたいに本を沢山読まなきゃね。欲しい本があったら、ボスが買ってやるから、本屋さんで探してみな」

 「やった!」

 久々の、身内自慢である。
 まあ、瑛汰はこれからの生きものである。だから、先はどうなるか分からないわけだし、喜ぶときには、褒めるときには、喜んで褒めなきゃ。

 とりあえず、身内自慢を許されよ!

 

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