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 2013年8月1日 真夏の珍道中3 「ないよ」

 さて、大牟田にも行き着かないまま8月を迎えてしまった。
 我々3人の珍道中がもたもたしてるうちに、あの麻生さんがナチスの政権奪取手方を賛美するような発言をしてしまった。本日になって撤回されたようだが、発言というものは撤回すれば元に戻るものでもない。

 「私がナチスおよびワイマール憲法にかかる経緯について、極めて否定的に捉えていることは、私の発言全体から明らかだ」

 とおっしゃっているようだが、発言全体を読んでもちっとも明らかではない
 ま、麻生さんのことである。着物の下から鎧が覗く、とまでは言わないが、気が緩んでいることは確かである。自民党大勝がもたらしたものであろう。

 さあ、失言癖のある人から失言が飛び出した。自民党は気が緩んでいる。野党のチャンス、といいたいが、肝心の野党の姿が何処にも見えない。何処に行くのかね、この国。


 で、啓樹、瑛汰、私の3人はひたすら大牟田を目指した。途中からポツポツと雨が降り出した。なにもそこまでNHKの天気予報通りにしなくてもいいだろ、と悄然としたが、何しろ我々は遠くから、3人のびっしり詰まったスケジュールを1ヶ月以上前から調整、この日しかないという日程で九州に繰り込んだのである。当時、この日の天気予報は存在しなかった。天気が悪いから、なんて嘆くことは許されない旅人なのである。とにかく、来てしまったのだ。

 大牟田の我が家は、まだ世に車なるものがほとんどなく、裕福な連中は人力車を利用していた時代に土地が選定され建てられた。当時は小高い丘の上が居住地としては高級とされ、そこに至る道は人力車が通ればよい、といった程度のものである。我が家に至る坂道は、狭い。

 その狭い道を何とか車を操りつつ、正直に言えば、

 「多少こすったところで、福岡で保険料を払ってあるから大丈夫」

 と割り切りながら上った。激しい雨である。

 「啓樹、瑛汰、着いたぞ」

 とは声をかけたものの、外に出るのが億劫になるほどの雨である。しかし、雨を全く予測しなかった我々に傘の用意はない。仕方ない。

 「行くぞ!」

 雨中を駆けるしかない我々であった。

 母の家に駆け込む。さて、これから母と弟嫁を連れてラーメンを食べに行き、終えて阿蘇に向かう。

 「ところで、カメラ、あった?」

 出てきたのは、古色蒼然たるデジタルカメラであった。さて、10年、いや、それ以上の時を経ているのではなかろうか。

 「これしかないので……」

 いや、かつて来たときは一眼レフがあったと思うが……。が、ないというのなら仕方がない。

 「じゃあ、いいわ。とにかく出発しよう」

 雨の中、5人に増えた我々は車に乗り込んだ。このとき、

 「ああ、カメラは買わなくっちゃしょうがないな」

 と私は心に決めた。自らのミスで生じた結果は自らの負担で補修するしかないではないか。財布は軽くなるが……。


 後に、弟から苦情を聞く。

 「何ばいいよっとね。あんカメラは工事現場で使う高級品ばい。見てくれは悪かばってん、あっで8万円ぐらいすっとよ。よう写って雨ん降ったって風ん吹いたって撮られる良かカメラば分からんとね」

 いやあ、それはすまなかった。しかし、どう見てもあれ、骨董品に見えたもんなあ。


 大牟田に行ったら、東洋軒でラーメンを食おうと決めていた。ところが電話で話した弟は

 「東洋軒? あすこは美味(うも)なか。つるやのほうが美味かばい」

 という。そうか、大牟田が誇った東洋軒も味が落ちたか。我々はつるやへ向かった。

 啓樹、瑛汰はラーメンに餃子、私はラーメン+おにぎり、ラーメンが苦手の母はご飯に餃子、弟嫁はラーメン。まあいい。夜は阿蘇のホテルで豪華絢爛の夕食、のはずである。昼食の栄養バランスが多少偏ろうと知ったことか。

 食べながら瑛汰がいった。

 「ねえ、ボス。ホテルはさ、部屋一つ、二つ?」

 「ん、聞かなかったなあ。着けば分かる」

 「瑛汰、二つの方がいいな。その一つに啓樹とボスで寝るのがいいな」

 そうか、初対面の大ババとおばさんに、瑛汰、お前でも臆しているか。


 「啓樹、瑛汰、これを食べたらトイザらスに行こう」

 誘ったのは私である。

 「旅行の間遊ぶ玩具を買おう」

 食べ終えてトイザらスに向かった。大牟田はトイザらスが出店するほどの大都市なのである、のか?

 「さあ、水鉄砲を選べ。それと、啓樹が桐生で買った電子銃をもうひとつ買おう。桐生で買ったのは四日市に行ったから、今度買うヤツは瑛汰のところに置くヤツだ。旅行中は2人で遊ぶ。もうひとつ、ロボット魚を買おう。これ、啓樹と桐生で買ったら大変よかった。本物そっくりに泳ぐ。旅行が終わったら瑛汰のものだ」

 「ねえ、ボス」

 と声をかけたのは瑛汰である。

 ノート買っていい?」

 ノート? 瑛汰はどういう訳かノートが大好きだ。我が家に来ては私のノートを持って行く。買い物に出ると、ノートを買えという。ノートなんて面白くもおかしくもない代物だと思うが。

 「ノート? 何に使うんだ? またママに怒られるぞ」

 瑛汰のママは、ノートを集め続け、少しだけ書いては次のノートに移る瑛汰にご機嫌斜めだ。とばっちりは、

 「お父さん、どうして買ってやるのよ。瑛汰はいっぱいノー友ってんだよ」

 と私に来る。また、ノート。どうする?

 「だってさ、旅行の間の日記をつけたいんだ。お願い、お願い、お願い!

 そこまで瑛汰にいわれて無碍にする強い心を私は持ち合わせていない。

 「それから」

 瑛汰は図に乗る。さらなる要求を突きつける。

 「鉛筆削り買って。だって持ってこなかったんだもん。鉛筆の先が尖ってないと、ほら、このノートのマス目にかけないでしょ。だから瑛汰は、鉛筆削りがいるんだよ」

 瑛汰は小学1年生にして、論理で相手を説得しようと試みる理屈屋だ。「だって」「だから」は、瑛汰論理学の必須用語である。


 大牟田のトイザらスの隣には、電気店がある。

 「おい、カメラを買いにいくぞ。これは旅行中はボスのものだ。旅行が終わったら啓樹のものにする。だから啓樹、お前が選べ。高いものは買わん。1万5000円以下にしろ」

 「えーっ、どうして啓樹にやっちゃうの。瑛汰だってカメラ欲しい!」

 「瑛汰には、誕生日プレゼントに買ってやったよな。でも、瑛汰が写真を撮ってるという話はちっとも聞かないし、写真も見たことがない。これは啓樹のものだ」

 「瑛汰だって欲しい!」

 「うるさい!」


 かくして、Sonyのデジカメを買った。16Mのカードをつけて、確か1万円内外。緊急避難である。多少写りが悪くても我慢するしかない。

 さて、これで装備は完備した。いよいよ阿蘇に向けて出発である。時計の針はすでに午後3時を回っていた。


 啓樹と瑛汰の嬌声と私の怒鳴り声が連続したドライブを再現しても仕方がない。いずれにしても、午後5時を過ぎて、我々は目的のホテルに到着した。土砂降りの雨である。時折、稲妻が光り、落雷の音がする。その中を、私が運転するスバルB4は玄関先に滑り込んだ。

 「さあ、啓樹、瑛汰、自分の荷物を降ろせ」

 雨が降り込まないところですべての荷物を降ろし。足が悪い母も、その介護役の弟嫁も降ろし、私は傘を1本積んで車を駐車場に運んだ。車からホテルまで傘を差して戻ったのは言うまでもない。
 チェックインを済ませる。

 「やった! 部屋は二つだって」

 声を上げたのは、当然瑛汰である。正直さは買う。しかし、こいつ、自分の発言が周りにどのような思いをもたらすかをまるで配慮していない。まあ、小学1年生にそこまで望むのは無理ではあるが。

 部屋は6階であった。隣り合った2室。啓樹と瑛汰が選び、母たちはベッドと和室のある部屋、我々は和室に収まった。
 収まったら、まずデジカメを充電しなければならぬ。買ったばかりなのである。車の中で多少撮影していたようだが、恐らく、電池は空っぽ寸前のはずだ。

 「啓樹、デジカメは?」

 「えっ、デジカメ?」

 「うん、充電しとかなきゃいけないだろ」

 「えーっと、何処行ったかな」

 「あれは啓樹のデジカメだろ。啓樹がここに持って来なきゃいけないカメラだろ。探せ





 「ないよ」

 啓樹は最近、メガネザルとなった。ま、両親ともに近眼だから、仕方ないことである。
 だが、眼鏡をかけ始めた啓樹は、余人には絶対にできないであろうことをやった。かけ始めたばかりの眼鏡を、ある日どこかで落とし、落としたことに気がつかぬまま家に戻ったのである。帰宅して母親に

 「あんた、眼鏡は?」

 と聞かれ、

 「えっ」

 といったまま、何処で落としたかも思い出せぬという、極めて代わった人格の持ち主なのだ。
 天才とは、些事にこだわらず、己に関心事にだけ集中できる人種を指す。眼鏡を落としたことに気がつかぬ啓樹は、ひょっとしたら天才ではないか。
 ま、眼鏡を落としたことに気がつかぬほど集中していたことの中身にもよるが……。

 それを知る私は、買ったばかりのデジカメを瑛汰がどこかに置き忘れても驚きはしない。第一、阿蘇に向かう車中で、啓樹と瑛汰はカメラで遊んでいたのである。置き忘れたとしたら車の中しかない。
 が、ここは一応、叱っておかねばならぬシーンではある。

 バカタレ。自分のものは自分でちゃんと管理しろ。しかも、買ってもらったばかりだろう」

 それはいい。しかし、カメラは充電を求めている。早く新しいエネルギーを注ぎ込んであげないと、エネルギー切れを起こした鉄腕アトムになりかねない。

 「2人ともここにいるんだぞ。内側から鍵をかけて、『ボスだよ』とボスが声をかけるまで、絶対にドアを開けるな」

 言い置いて1階に降りた。

 「傘を貸してもらえないかな」

 「どちらへ行かれます?」

 「車に忘れ物をしたようなので、取りに行くんだけど」

 「お客様、もう少しお待ちになった方がよろしいかと」

 「多少濡れても構わないよ」

 「いえ、雷です。近いんですよ。つい先ほども、ほら、あの山に落ちましたし。ホテルは一応避雷針は備えているんですが、この雷では……」


 という話を聞いているうちにも、暗い空を切り裂く稲妻が何度も走り、地が揺れるかと思えるほどの雷鳴が響く。なるほど、ここは阿蘇である。天に近い。自然はむき出しの姿を見せる。

 「俺は安堂じゃ!」

 と叫ぼうと、降りしきる雨の中にすっくと立ち、空をにらんで手を振り回そうと、自然は

 「あれ、何?」

 と視線を注ぐこともなく、全く無視して己の理に従う。究極の集中力を持つ自然は天才で、人間なんてちっぽけなものだ。

 「そうだね。黒こげになるのは嫌だもんね」

 怖じけずいた私は、しばらく時を待つことにした。


 ああ、やっと阿蘇にたどり着いた。明日は山頂に登れるかな?

 

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