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 2012年12月7日 気合い抜け

 落ち葉が赤城おろしに煽られ、道路上でダンスを踊る季節になった。群れをなして車道上をさまよいながら、ラインダンス、フラメンコと、さまざまなパフォーマンスを繰り返す。

 冬である。皆様とともに、この冬も元気で乗り越えたい。健康にはくれぐれもお気をつけていただくようお願いする。


 昨日の朝刊で、各紙一斉に、衆議院選挙の世論調査結果を書いた。数字に多少の上下はあれ、そろっているのは自民党が単独過半数を取りそうなこと、民主党はボロ負け必至であること、第3極と呼ばれる新興勢力はそれなりの議席数しか見込めないこと、である。
 そんなもんだろうとは思っていた。が、やっぱり「そんなもん」であることに愕然とし、気合い抜けした。

 つまらぬ有権者の集団は、つまらぬ政治シーンしか作れぬ。
 いや、選挙制度が悪いのか?
 そもそも、民主主義とはその程度のものか?

 「ねえ、安堂さん、選挙、どうします?」

 今日、一緒に群馬大学工学部の教授を訪ねた友が、道すがら、助手席から声をかけた。

 「どうっていわれてもねえ。やっぱり、世論調査の結果みたいになっちゃうんでしょう」

 「そうなんですよねえ。でも、投票所に行ってどうしよう勝って考えちゃうんですよ。民主には期待したけど、これだけ裏切られたでしょう。じゃあ、って自民党に戻るのもねえ。私たちを苦しめた張本人だから」

 彼は、中小企業主である。

 「でも、維新なんて気持ち悪いし、かといって、群馬2区ではその程度の選択肢しかありませんものねえ。どうしようかと」

 「いっそ、いま出てこなかった共産党に投票したら? ま、それもなしか。世の中これだけ変わっているのに党の主張が変わらないって、よっぽど鈍感か、ドグマにがんじがらめにされた頭の悪い奴らの集団でしかないものねえ」

 思いは私も同じである。

 「いっそ、棄権したら? あ、棄権せずに比例区だけ投票してくるとか。そういえば、知り合いの自民党員は、比例区ではもちろん自民党と書くけど、選挙区は自分の名前を書くなんていってたけどね」

 つまらぬクソ選挙である。皆様はどうされるのだろう?


 つまらぬ話だけでは世の中、ますますつまらなくなる。それで、素敵な本をご紹介する。新聞の書評欄などでも好意的に取り上げられているので、ひょっとしたらお読みになった方もいらっしゃるかも知れないが。

 「弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー」(高橋秀美著、新潮社)

 進学校で名高い開成高校の野球部の話だ。これが底抜けに面白い。何が面白いのか。ここは、著者には申し訳ないが、本文の一部をそのまま引き写す。

 要するに、彼は満を持して野球部に入部したということらしい。
 ——それで、いまの課題は?
 「投げる、捕る、どちらも完璧にできません。野球に関していうと、今の僕には自信を持って『これは完璧だ』といえるものがないんです。守備というのはチームに入って初めてやることで、僕はゼロからのスタートですからね」
 何やら大リーグに入団したときのイチローのコメントのようで、私は言葉を差し挟めない。
 「問題はゴロに対するアプローチですね。ある動作に入って球を捕って投げる。そのアプローチに対する対応力が僕にはないんで」
 ——アプローチに対する対応力?
 聞いているうちに私は頭がこんがらがってきた。打球への対応ということなのかもしれないが、彼はアプローチに対応しているようで、打球よりも方法論的な懐疑に見舞われているのだろうか。
 ——バッティングについては?
 「これをこうすればよいというような論理的なものはまだ確立していないんです。今は監督に言われたことを参考にしています。すごいためになるんです。未経験の僕にとっては貴重なアドバイスですからね。いずれにしてもすごい感覚的なことなんで、やはりちょっとずつの動作の積み重ねでできるようになるのかなと思っています」
 野球を始めてまだ半年。打てなくても話のつじつまが合ってしまうと、かえって打てるようにならないのではないかと心配がよぎる。
 ——野球をやってみてよかったですか?
 シンプルにたずねると、彼はまたテキパキと答える。
 「実際にプレイヤーとして当事者になりましたからね。これまでは部外者として眺めるだけでしたから、やりつつ見つつ、という両方から野球を楽しめるようになりました。あらためてプロの外野手がやっているファインプレイなどは、そう簡単にできるものではないなあと。あれは長年の経験に裏打ちされた判断力によるものなんですね。おかげでそれまで見るだけだった野球を、自分の動作と考え合わせながら応援できるようになりました」


 いや、この会話はまだ続くのだが、このあたりで打ち切る。
 なるほど、天下の天才と秀才が集まる開成高校で野球をやっている15歳、16歳の頭の中はこのように動いているのか。これだけの理屈をつけなければ、たかが野球(失礼!)をできないのか。

 私は、周囲からは理屈っぽいといわれる。しかし、たかが野球(再び、失礼!)をやるときの私の頭は、このようには働かない。彼らの論理的思考態度には脱帽である。私が開成高校—東大と進めなかった最大の原因かもしれない。

 と、自らの頭のできを卑下しつつ、でも、この高校生たちの頭の動き方が、とてつもなくコミカルに思えてしまうのも事実なのである。野球に関するすべてをまず理屈で考えて納得しないと、彼らの体は動かない。いや、納得しても体はなかなか動いてくれない。するとまた、彼らは

 「何故体が理論道理に動かないのか?」

 と理屈で考えて回答を求める。
 その、自分に与えられた能力をフルに使いながら、あるいは与えられた能力に振り回されながら、野球に取り組む姿が、喜劇以上の喜劇なのだ。

 「ふむ、人並み以上に頭がいいとは、そのようなことなのか。であれば、人並みの頭しか与えられなかったことを喜ばねばなるまい」

 この本を読むと、そんな感慨に捕らわれる。捕らわれながら私は、でも笑い転げてしまった。

 そのような開成高校野球部が、2005年夏、全国高等学校野球選手権大会東東京予選でベスト16まで勝ち進んだ。何で開成が? と驚きに捕らわれた著者が取材に入って出来上がったのがこの本だ。 
 練習日は週に1日。練習はほとんどがバッティング。エラーをするのは当たり前。投手は下手にコーナーなど狙わず。ひたすらにストライクを取ることに全力を挙げる。そしてどさくさに紛れて大量点を挙げ、できればコールドで勝つギャンブル野球。そんな彼らの姿に、この本で接していただきたい。

 あ、そういえば、こんなことも書いてあった。

 「僕は球を投げるのは得意なんですが、捕るのが下手なんです」
 内野(ショート)の2年生はそういって微笑んだ。「苦手なんですね」と相槌を打つと、こう続けた。
 「いや、苦手じゃなくて下手なんです」
 ——どういうこと?
 私が首をかしげると彼はよどみなく答えた。
 「苦手と下手は違うんです。苦手は自分でそう思っているということで、下手は客観的に見てそうだということ。僕の場合は苦手ではないけど下手なんです」
 野球ではなく国語の問題か? と私は思った。ちなみに開成中学校の入試問題(国語)はすべて記述式である。長文を読み、その内容について「できるだけ自分の言葉でわかりやすく説明しなさい」「四十字以内にまとめて答えなさい」などと問われ、読解力と表現力を試される。算数や理科、社会も問題文がとても長く、私などは何が問題なのか、にわかに見当がつかないほどなのである。

 どうです? とてつもなく面白いと思いません?
 詰まらぬことが横行する昨今、腹を抱えて笑うことも時には必要だと愚考し、お薦めします。

 

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