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 2012年6月9日 そうか

 桐生に来て知り合ったT君と、久しぶりに出くわしたのは昨夕のことである。顔を見るなり、彼はいった。

 「あれっ、安堂さん、痩せた?

 私はモデル並みの体型になりたいと思うものではない。あんなに骨と皮ばかりの人生は送りたくない。できれば筋骨たくましく、見ても触っても

 男!

 という体型でありたい。

 なのに、ちょいと嬉しくなった。骨と皮の人生はゴメンだが、ベルトの上から有り余った肉がせり出している体型もゴメンなのである。腹筋が割れているような体には遠く及ばないとしても、せめて腹回りはフラットであって欲しい、と日々願っている。
 痩せた? ホントに?

 と思いながらT君の顔を見た。ん? 俺を嬉しがらせておきながら、その渋面は何だ? 俺がスマートになると、君は困ったことでもあるのか? 俺は、君のガールフレンドは顔も知らない。いくら俺がスマートになったからって、顔も知らない君のガールフレンドを口説き、君から取り上げるなんてことは無理だぞ! なぜ渋面を作る?

 「安堂さん、体、大丈夫?」

 こいつ、渋面を作りながら何をいっているんだ?

 「だって、ほら、痩せちゃったんで、首のあたり、老いが浮き出してますよ」

 思わず、右手を強く握りしめてしまった。こいつ、ぶん殴ってやろうか!

 人目があった。そんな場所で暴力を振るえば、警察に通報されかねない。沸き上がる怒りを、必死で押さえ込む。
 君、な、なんということをいうのだ? つい先日も

 43?

 っていわれた俺だぞ。俺の日誌を読んでるなんていってるけど、本当に読んでるのか? それに、血圧だって最近はずっと正常だし、腰と肩と頭以外は悪いところがないのが俺の自慢なのであるぞ。それを……。
 あのな、人間、年齢を隠せないところが2つだけあるんだって。首筋なんだって。
 それを……。

 まあ、よい。問題は見た目の若さではない。心の若さ、Young at Heartである。それでなくても歳の差婚が流行っているのだ。30歳下の彼女なら、いまはまだ33の女盛りではないか。
 出過ぎた口をききすぎたと後悔したら、33歳の見目麗しき女性を私の前に連れてきたまえ。その女性の質如何によっては、君の暴言を許してつかわす。
 期間は今日から1ヶ月。さあ、7月8日までに、私をメロメロにする33歳の女性を捜せ! できれば、あの娘にしてほしいけど……。


 今週の週刊新潮に、 前回の日誌で提起した問いの答えがあった。
 オウムの菊池直子をチクッたのは、同居していた高橋の親族だとあった。

 私は前回、チクッたのは同居していた高橋に違いないとの自説を紹介した。その答えに至る推論は正しかったようだが、最後の段階で詰めが甘かった。
 手配写真、逮捕後の写真を見る限り、手配写真で捕まった女が菊池直子であると判断するのは不可能である。であれば、顔かたちが全く変わってしまったその女が菊池直子であることを知る立場にいる人間しか通報できない。つまり、結婚を申し込み、オウムの高橋だから受けられない、といわれた同居の高橋しかいない、と私は考えた。
 まさか高橋が、親族に話していたと。だって、惚れて、結婚したいと思った女が指名手配犯であることを、いくら親族だからといってペラペラしゃべるか? そんなことしゃべるヤツ、男じゃないだろう!

 ここから判断する限り、菊池直子には男を見る目がない。ま、男を見る目がない女は数限りないが、逃亡犯である菊池はもっと警戒せねばならなかったはずだ。ねえ、こんなに男を見る目がないということは、男に泣かされ続けた可能性が、いや、自ら求めて男で泣いてきた過去があったと想像できる。だからオウムみたいなところに加わったのかも知れない。

 にしても、

 「私の方が早く通報したのに、警察が取り合ってくれなかった」

 とクレームした馬鹿がいたそうだ。そりゃあ、警察だって取り合わないだろうよ。何度も言うが、手配写真からは、逮捕された女が菊池直子であるとは絶対に判断できない。それを分かって通報したというあんたは、金目当ての通報常習犯に違いないのである。

 そうそう、この同居の高橋、週刊新潮によるとバツイチ。前妻との間に2人の子があり、長女は結婚して子供もいるのだそうだ。
 同居の高橋、40を過ぎたばかりなのに、すでにしてジイジなのである。常人ではない。

 ここから得られる教訓は一つだけである。
 私も常人であることを放棄すれば、啓樹、瑛汰、璃子、嵩悟に、ボスはまだ闘えるオスであることを見せてやることができる。

 さ、私も常人ではなくなろう。
 いまでも、

 「安堂さんは、普通じゃない!」

 といわれるぐらいだから、簡単にできるのではないか?


 璃子の元に昨日、「ミニ・マイクロ・キックスリー ピンク」が無事届いた。早速、自宅前の道路に出て遊んだらしく、次女から写真が送られてきた。
 黄色いヘルメットをかぶり、「ミニ・マイクロ・キックスリー ピンク」にまたがる。右手は掌を前にして顔の前にあり、人差し指と中指で鼻をつまんでいる。
 その写真を見て、妻殿が電話をした。

 「璃子ちゃん、鼻でも痒かったの?」

 ではないらしい。次女によると、これは璃子の決めのポーズなのだそうだ。ここは決めなくっちゃと璃子が判断すると、璃子はこのポーズをとる。
 右手の掌を相手に見せ、人差し指と中指で鼻をつまむ決めのポーズ。
 ひょっとしたら、璃子も常人ではないのかも知れない。

 

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