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 2012年2月20日 疲労

 何か疲れている。行動を起こす原点である意欲がわかない。

 「ま、そんなこと、明日でも明後日でもいいんじゃない?」

 と考えてしまう。
 歳のせい? いや、そうではない。そうではないと思いたい。精神的に疲労しているのである。

 思いつく原因は一つである、魔の土曜日のせいだ。

 土曜日、18日。私は始めてステージに立った。
 いや、正確に表現すると、初めてではない。学生時代、ギターを持ってステージに立ち、何曲か唄ったことがある。が、あれは若気の至り。コードが弾けて唄えれば良かった。ギターの練習なんてまったくせず、弾いて歌った。コードを弾く程度だから、たいして技量もいらない。それだけのことだった。

 が、今回は違う。ステージに立って、我が敬愛するEric Claptonの音楽を再現せねばならない。緊張は極度に達した。

 こんな羽目に追い込まれたのは、ギター教室の先生のおかげである。今月4日、誘いに乗ってリハーサルに行ってきたことはすでに書いた
 その時、本番にも是非参加しろといわれたこともお伝えした。それでも、逃げたかった。それなのに

 「安堂さん、出なさい。絶対出なさい」

 先週のギター教室で、先生に念を押された。逃げ切れなくなった。


 午前11時半頃に公民館に着いた。本番前のリハーサルのためである。ステージに上がって音を出した。出しながら、それでも、逃げられるものなら逃げたいと心の片隅で考えていた。
 私、小心者なのである。


 出番が来た。ギターを2台持ってステージに上がった。1台は、チューニングを半音下げてある。楽に唄うためである。
 客席には50〜60人の聴衆。えーい、ままよ。なるようになれ!

 「こんにちは、安堂です。生まれは九州、そう、山猿のなれの果てです。文化果つる土地から文化実る桐生に3年近く前にやってきました」

 まず、自己紹介である。

 「桐生に来ることが決まったら、ある後輩が言いました。『安堂さん、いいとこに行きますねえ。桐生って美人の産地だといいますよ。悪いことしちゃダメですよ』って。それで、桐生生まれの別の後輩に聞いたんです、桐生って美人の産地なんだって? って。そしたら、この後輩、しばらく黙っちゃって。そのあといいました。『40年前、50年間の美人だったら沢山いるけどねえ。安堂さん、それでいいの?』って」

 客席が沸いた。聴衆の笑いを取った出演者は私が初めてである。これは、さい先がいい。追い打ちをかけなければ。

 「で、今日は美人が沢山いらっしゃって、心から嬉しく思います」

 聴衆の大半を占めるおばあちゃんたちが、声を上げて笑った。ふむ、もうひとつ行くか。

 「桐生に来て、60の手習いでギターを始めました。今日は、ギターの神様といわれるEric Claptonの曲をやります。ギターを始めるときは、1年でEric Claptonになると宣言したんですが、始めて2年少々になるのに、 神様になれないのは仕方がないとしても、まだ神主さんにもなれません

 客席、大爆笑。

 「私は嘘はつけません。神主さんにもなれない私は、今日、必ずとちります。何があってもとちります。これだけは約束します面白いとちり方をしたら、声を上げて笑ってください」

 San Francisco Bay Blues

 から始め、

 Tears in Heaven
 Layla


 と進んだ。約束通り、壮大にとちった。とにかく、右手が動かない。人右手を見ると、何と震えているではないか。私、根性なしである。

 で、次は

 Norwegian Wood

 をやる予定だって。ところが、後ろの方で手をグルグル回している人がいる。時間が押している。早くやめろというのである。
 救われたような、残念なような、不思議な気分であった。そこで、岡林信康の

 ジェームス・ディーンにはなれなかったけど

 を途中までやって、

 「ありがとうございました」

 とステージを降りようとした。その時、聴衆から声がかかった。

 「えーっ、アンコールないの?

 アンコール? 俺の歌を、ギターをもう1曲聴きたいって? 嬉しいなあ。じゃあ、やっぱり

 Norwegian Wood

 やっちゃうか?
 部屋の後ろを見た。相変わらず、手がグルグル回っている。時間切れらしい。

 「御免なさい。もう時間がないみたいです。次の1曲は、お客さんと2人だけの時に聴いてもらうことにします」

 といってステージを降りた。アンコールを求め、私に話しかけられたおばあちゃんは歯をむき出しにして笑っていた。お年、80?
 私、女性と認めるのは30代までなんだけどね。


 考えてみれば、私に気力がわき上がらないのは、あの瞬間からである。
 あの、わずか20分足らずのステージで1週間分のエネルギーを使い果たしたのか?
 ステージで受けた拍手が忘れられないのか?

 土曜日、日曜日、そして今日月曜日と、ギターを手に持とうという意欲がわかない。
 その意欲がわかないまま、昨日は終日、アカデミー賞受賞作の分別作業に追われた。今日は、まあ平日だから仕事ををこなした。

 うむ、いつになったら気力を回復し、再びギターを抱く気になるのか? それに、何だか眠気が取れない。

 ちと、困った状況である。明日は大丈夫だと思うのだが……。

 

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