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 2011年8月23日 不眠

 昨夜、というか、今早暁、なかなか寝付かれなかった。
 布団に入ったのが、午前零時前。一度はウトウトしかけたのだが、午前1時前に目が冴えた。どんなに眠ろうとしても、寝付けない。

 仕方なく、本を読み始めた。「ビートルズのビジネス戦略」(祥伝社新書)。この程度の中身で本が商品になるのなら、世の中は甘い。読み進むにつれて、その確信は強まった。ひと言で言えば、牽強付会ばかりでできた詰まらぬ本である。まだお読みでない方、こんな本を読んで経営をしようなど、ゆめゆめお考えめさるな。会社をつぶすことになりかねませんぞ!

 ま、私のような読者がタイトルに惹かれて買うからこんな本も商品になる。そういえば、どこかの新聞の書評でこの本を取り上げていた。こんな本を取り上げるライターが書評欄を任されるとは、世の中、甘すぎる。
 一番甘いのは、その誘いにうかうかと乗って財布から金を出した私であることは重々承知しているが。

 読み終えた。午前2時半である。

 「もう眠れるだろう」

 電気を消して目をつぶる。

 「羊が1匹、羊が2匹……」

 と数えはしなかったが、できるだけ頭の中を空っぽにしようと努力する。

 「あいつ、大丈夫かね。自分でやるといっていたが。俺がいなくてもちゃんとやれるのか?」

 「今日会った姉ちゃん、感じよかったね。次にあったとき、どんな話を仕掛ける? 何か始まるかな?」

 いけない。私の脳はまだ活発に動き続けている。昼間に活発に動く脳は頼りになるが、眠ろうとするのに活動を続ける脳は困りものである。
 様々な思考、妄想が次から次に浮かんでくる。眠りは訪れない。

 眠りをあきらめて、再び本を読み始めた。「民衆という幻想」(ちくま学芸文庫)。こんな固い本の活字を追っていけば自ずから瞼は重くなるだろう。
 なのに。

 おいおい、オッサン、そりゃあないだろう! 

 「あの悪童たちは私の民衆体験の原型である。私は彼らの無口な男らしさややさしさに憧れていたのだといってよい。そして、自分がそのような『知識人対民衆』的な関係においてではなく、自分もその悪童の一員としての立場で彼らとつきあうならば、そのような憧れは発生の根拠を失うであろうこと、またそうするならば彼らのずるくてしたたかな根性をリアルにうけとめることができたであろうことを知らなかったといってよい」

 ははあ、あんたは知識人で、民衆ではない、ってか。
 自分の中に、いやらしさ、残酷さ、怠惰さ、計算高さ、日和見の心、無知、ありとあらゆる人間のくだらなさが救っていることを自覚しない人間を、あなたは「知識人」と呼ぶのか?
 詰まらぬ思い上がりオヤジの書いた本を買ったものだ。

 などと怒るから、ますます眠れなくなる。
 時計を見る。4時。こりゃいかん。
 
 起き上がってグラス半分の焼酎を飲む。暑い。寝室はずっとエアコンをかけているのに、上半身に汗をかいている。自律神経がおかしいのか?

 飲み終えて布団に入る。まだ眠りは訪れない。仕方なく、思い上がりオヤジの本を読み続ける……。

 睡魔に引き込まれたのは、恐らく5時頃である。そして、目覚めると午前7時過ぎ。

 「何、これ。2時間しか眠ってないってこと?!」

 午前中は眠かった。場所を選んで1時間ほど昼寝、いや朝寝をした。それでややバランスを回復し、午後から人に会いに出かけた。

 でも、何がいけなかったのか?
 それまで眠りすぎの暮らしをしていたのか?
 加齢に伴う睡眠障害か?

 そういえば、昨日は電話に向かって怒鳴った日であった。

 iPod用のアプリを買おうと思った。これまでiPodは音楽を再生できればいい、iPhone電話をかけられればいい、とシンプルに考えてきた私にとって、初めてのことであった。
 ギターの練習をするのに、音程を変えず、再生速度だけ変えるアプリが欲しかったのだ。

 いや、そのような機能を持つCDプレーヤーはすでに持ち、活用している。しかし、CDを再生するしか脳がない機械で、モーター、スイッチなど、可動部分が多すぎる。過酷な取り扱いをすれば壊れるに決まっている。が、同じことがiPodのアプリでできれば、こいつには機械的に動かす部分がほとんどないから故障の危険ははるかに小さい。そう考えたのだ。
 ま、考えるまでもなく、わずか450円のものである。うまく作動しなくても、我慢はできる。

 と思って購入を決意した。ところが売ってくれない。もちろんネットでダウンロードするのだが、やろうとすると

 「購入した項目をダウンロードできませんでした。"iTunes Media"フォルダ、またはその中にあるフォルダに対する書き込み機能がありません。Finderでアクセス権を変更してから、"Store>ダウンロード可能な項目があるか確認"と選択してください」

 という警告が出て、そこから先、一歩も動かない。こいつ、客を見るのか? 俺には売りたくないのか? 俺って、そんなに嫌われ者なのか……。

 iTunes Storeサポートと、何度かメールのやりとりをした。指示通りに作業するのだが、相変わらず同じ警告が出る。とうとう相手がさじを投げた。AppleCare Service & Support Lineに電話で問い合わせろという。それに従って電話をした。その相手を、私は怒鳴ってしまった。

 まず現状を説明した。電話での指示に従ってパソコンを操作した。が、事態は一向に改善しない。その時、そいつがいったのだ。

 「あなたのコンピューターは無料相談の期限を過ぎております。これ以上のサポートは有料となりますが」

 その瞬間、頭に血が集まった、気がした。

 「ふざけるな! 私はAppleのコンピューターを使い、iTunes Storeから初めてアプリを買おうとしているのだ。買ったアプリはAppleiPodに入れる。すべてAppleの製品だ。あんたのところは、これから買い物をしようとしているAppleの愛用者、初めてのiTunes Storeの客に、まず買い物をする権利を売るのか? それがAppleの商法か?」

 それほど強い語調で言ったつもりはない。いわれた相手が、どれほどの語調だと理解したかは、私の知るところではない。

 「お客様、お待ちください。上司と相談して参りますので、そのままお待ち願います」

 上司に電話が繋がった。症状を告げ、その上司のいうとおりの作業を続けたが、やっぱりダウンロードできない。

 「ちょっとお待ちください。調べて参ります」

 「それではお客様、似たような現象がほかのお客様でも起きたことがあるようなので、次の作業をやっていただけますか?」


 いわれたとおりにした。ダウンロードに成功した。何でも、ある操作をするとパソコンの中に不要なファイルができ、それがダウンロードを邪魔していたらしい。

 「お客様のMacには複数のアカウントが設定されているようで、複数のアカウントを作成すると、その過程で不要なファイルができ、それが邪魔をしていたと思われます」

 「いまのMacを買ったとき、ネットにうまく繋がらなくて、電話でAppleのサポートを受けながら別のアカウントを作り、それで繋がったのです。複数のアカウントはその時にできたものなんだけど」

 「そうでしたか。それは重ね重ね、ご迷惑をかけました」

 そうなのである。ご迷惑をかけられた私が、新たに菅を取られようとしたのが、昨日の流れであった。

 だから寝付けなかったのか?
 私は、「上司」の対応に十分納得したのだけど。
 それとも、愛しいあの娘が最近冷たいので眠れなかったのか?
 やっぱり加齢のせいか……?

 間もなく、午後9時半。今日の寝不足の分、今晩はぐっすり眠れるはずである。

 

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