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 2011年1月17日 餃子

 に続いて餃子
 最近、「らかす日誌」はデパートの何でもあり食堂のメニューに変わったのかい?

 という突っ込みをいただく前に、自分で突っ込んだ。そう、鰻のあとは餃子なのである。

 昨日発送した鰻は、無事、正午前後に瑛汰の元に届いた。
 次女によると、

 「1枚食べちゃったわよ。もちろん、ご飯と一緒」

 泉新の鰻重には、鰻が2枚乗ってくる。鰻を1枚食べたということは、鰻重の半分を食べたことになる。
 瑛汰、まだ4歳と半年である。それが鰻重を半分平らげる。
 食欲はほぼ正常。このまま、回復への道をひた走って欲しい。

 その瑛汰が言ったそうだ。

 「でも、ボスのところから餃子来ないね」

 そういえば先週末、

 「美味しい餃子も送るから、いっぱい食べるんだよ」

 と電話で伝えた。桐生には、餃子の美味い店があるのだ。

 津、岐阜、名古屋、東京、札幌、東京、名古屋、東京、そして桐生と渡り歩いた私は、様々なところで餃子を口にしてきた。宇都宮の餃子が話題になると、宇都宮に出張した折りに買って帰ったこともある。
 と書くと、餃子大好き人間に見えるが、実は、私、餃子は好きではない


 名古屋の大須観音の近くに、餃子の専門店があった。時折先輩が、

 「安堂君、今日は餃子食いに行こうや」

 と誘ってくれた。お付き合いして餃子を肴にビールを流し込んだが、

 「何でこんなものが好まれるんだろう?」

 と不思議でならなかった。私の口には、美味くない

 札幌では、

 「安堂君、ここの中華は美味いんだよ」

 と先輩が連れて行ってくれた店があった。先輩は餃子も注文した。

 「どうしてこれが美味いんだろう?」

 私の舌はどうしてもなじまなかった

 宇都宮の餃子は、皮が厚かった。自宅でビールの友にしたが、

 「この餃子で町おこし? 世の中、甘いもんだな

 としか感じなかった。
 要約すると、私は餃子が嫌いだった。というか、餃子を美味しいと感じたことが一度もなかった。

 桐生に来た初期、ほぼ最初に知り合った人と飲みに出た。彼はホスピタリティ溢れる人で、私を焼酎の店に案内した。

 「安堂さんはグルメのようですから、知り合いにいい店はないかと聞いたんです。そしたら、ここがいいといわれて。私も初めてなんですが」

 彼の指定した焼酎が水割りで出てきた。それで口を湿しながら待つうちに、鍋が出てきた。豚シャブをするのだという。

 「もう大丈夫ですよ」

 店員の声を聴いて、鍋に箸を運び、野菜と一緒に豚肉を取ってたれに漬け、口に運んだ。そのとたん、彼の顔色が変わった。いや、暗い店だったから、顔色が変わったのどうか、目で確認できたわけではない。急に彼がそわそわし始めた。そこから推量するに、顔色も変わっていたに違いない、と思うだけだ。

 「出ましょう」

 おいおい、待ってよ。鍋にはまだ沢山豚肉も野菜も残っているよ。もう出るの?

 「思ったほどではなかった。次の店に行きます」

 こうして案内されたのが、東西飯店である。テーブルが、確か3つ。あとはカウンターしかない。狭い。しかも、中華の店の常として、店内がどこか油染みている。それに、まだ宵の口だというのに、客の姿がない。

 1軒目があれで、2軒目がこれ。この男って……。

 「この店は餃子が美味いんです。餃子でいいですか?」

 まあ、私は桐生の新参者である。そういわれて、ダメだというほどこの店を知らない。まっ、餃子って美味いと思って食ったことはないけど、食えないこともないから、任せるよ。
 と心の内でつぶやきながら、私はにこやかに

 「もちろん、お任せします」

 と答えていた。
 人間、アラ還になれば、この程度のは平気でつける。

 ビールを飲んでいるうちに、焼きたての餃子が運ばれてきた。

 「ふん、餃子ね」

 半ば馬鹿にしながら、1つ目を口に運んだ。小振りの餃子はそのまま口に入る。入った餃子を噛みつぶした。

 「えっ、なに、これ」

 薄い皮が破れ、中身が口に広がった。ジューシーだ。肉と野菜の甘みが口の中に広がる。

 「美味いじゃん!」

 その瞬間から、東西飯店の餃子のファンになった。これまで食べてきた餃子って、いったい何だったんだ? と思わせる味だった。私の餃子嫌いは、これまで食べた餃子が不味かったからに過ぎないと思い知った瞬間である。
 自分の経験だけで判断する愚かさを知った瞬間でもあった。人間、いくら長く生きようと、経験できることは限られている。普通、それで世の中のすべてを知って気になってしまう。だから、長く生きてきたことに寄りかかる年寄りの話は退屈である。だが、
 世の中は広いのだ。あんたが経験していないことなんて、世の中には五万とあるのだ。あんたの過去の経験がすべて否定される経験に遭遇する機会は常にあるのだ。あんたは、それに出会っていないだけなのかも知れないとは考えないのか?
 過去の経験に縛られてはならない。新しい経験が何者をももたらさなかったとしても、過去のつまらない経験にもうひとつだけつまらない経験が積み重なるだけである。そんな理由で新しい経験を否定してはならない。新しい出会いは、常に過去をすべて否定するほどの歓びをもたらしてくれる可能性がある。

 というわけで、その日から東西飯店の餃子のファンになった。

 不思議な店である。いつ行っても、入れないほど混んでいたことはない。むしろ客がいる方が珍しい。なのに、よほど餃子に自信があるのだろう。冷凍餃子の地方発送を受け付けている。ただし、地方発送の最低単位は120個、6000円。


 「なんだけど、お前のところの冷蔵庫、120個の餃子が入るスペースがあるか?」

 餃子が来ていないという瑛汰のクレームを受けて、次女に電話をした。120個の餃子は1度には食べきれない。どうしても保管庫がいる。

 「うーん、120個……。入るかなあ」

 「着いた瞬間に20個ぐらいは食べるだろう、。20個ぐらいは隣にあげてもいい。とすると、80個入ればいい。小振りの餃子だから、それほど場所はとらないはずだ」

 「そうね、だったら送ってもらおうか。ありがとう」

 という話し合いの結果、夕刻東西飯店に出向き、送る手続きをした。送料込みで7050円。

 美味しさとは、である。愛する人には、美味しいもをの食べてもらいたい。その美味しさを口に運び、かみしめたときの笑顔が見たい。
 瑛汰はきっと、鰻を口にして笑顔を見せたはずである。ましてや、いまは病人だ。細った食を回復させねばならぬ。美味しいものなら食欲がわく。食べることができる。食べれば、身体に命が行き渡る。
 誰にも通用する愛の効用である。

 瑛汰、今日お店に頼んできた。明日送ってくれるそうだ。明後日には着くから待ってろよ。餃子、沢山食べて早く元気になれ!

 瑛汰は明日午後3時、済生会横浜市東部病院に行って再び検査をする。その結果が出るのは金曜日、21日である。

 病名が特定されること、そして何事もないことを祈る。

 

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