●日誌一覧

シネマらかす

グルメらかす

音らかす

旅らかす

スキーらかす

事件らかす

 2010年5月23日 読了

 「吉里吉里人」をやっと読了した。21日、金曜日のことだ。読み始めたのが7日だから、丁度半月かかったことになる。私としては、ずいぶん時間がかかった。
 ふーっ。

 なるほど、これは井上ひさし版、小説日本国憲法であったか、と納得した。そして、結末は、やっぱり呆気ない。

 食料の自給自足、膨大な金保有を背景にした経済力、兌換紙幣の発行、最先端医療を柱にした国家戦略……。
 パロディ仕立てなので、中には首をひねりたくなるものもあるが、いろいろなことを考えさせてくれる。
 それが、ある阿呆の不用意な発言で、国際社会で独立国と認められる前に一気に武力制圧される。

 井上さん、吉里吉里国が独立国家として生きていく姿、ここから先を読みたかったのに、それはないだろう。と言いたくなる。
 ひょっとしたら、あまりに話が複雑多岐になり、井上さんが放り出してしまったか。
 原稿用紙2500枚まで書き進んで、腱鞘炎にでもなったか。
 いずれにしても、惜しい。

 それでも、一読の価値はある。
 大変に長い小説だが、取り組まれてはいかがだろう。お奨めする。

 
 桐生に面白い会社がある。先日、尋ねた。
 織物の街、桐生。この会社の主な仕事は染色と整理だ。
 染色はいいとして、整理とは織物を最後の製品に仕上げる工程のことだ。織物の幅を揃え、皺を取る(逆に、皺をつけることもある)。

 が、染色と整理だけでは、いつまでたっても下請け仕事。社長は独自商品を持たねばと考えた。

 社員に色白の可愛い女性がいた。彼女が敏感肌で、化繊のブラジャー、パンティーを身につけると、肌が赤くなってかゆくなる。荒れる。綿製品を使えばいいのにと思うのだが、若い女性が身につける下着はほとんどが化繊なのだそうだ。デザイン、フィット感の問題か。だから、若き彼女は悩んでいた。
 その話を聞いた社長は、何とかできないかと考えた。

 絹糸工場で働く女工の手はスベスベしている。繊維関係の仕事をしているだけあって、社長はその話を知っていた。だったら、女性の下着に使われる化繊の糸をシルクで覆えないか?
 試行錯誤を繰り返し、絹糸からその成分を抽出することを思いついた。これを化繊の糸に貼り付ければいい。貼り付け方も工夫し、イオンの力を使うことにした。こうして、表面をシルク成分が覆った化繊で作られた下着が生まれた。

 「これ、俺が作ったんだけど、使ってみて。肌にいいはずなんだけど」

 その下着を、女の子に渡した。

 真面目な女の子で、1年間、それそれを身につけたという。最後は相当に傷んだが(彼女にボーフレンドがいたかどうかは聞き忘れた。いたらねえ、ボロボロになった下着なんて恥ずかしいでしょう)、それでも身につけ続けた。そして1年後。

 「肌はどうだ?」

 と聞く社長に、彼女は嬉しそうな顔で答えた。

 「肌がすべすべしています。赤くも痒くもなりません。ありがとうございました」

 見事に成功した。

 「ま、ホントかい、って、俺が自分の目で確かめるわけにもいかないからねえ。彼女の話をそのまま信じているよ」


 この会社はいま、シルク入りの化粧品を作り始めた。今年から市内の4店舗で売っている。うち1店舗はお酒屋さん。どうしても売らせてくれ、といって聞かなかったから、卸すことにしたのだそうだ。酒屋で化粧品。地方都市は面白い。

 開発中、皮膚科の医者に相談に行った。シルク入りの化粧品を作ったんですが、肌にどんな効果が期待できますか?

 医者は頭から馬鹿にした。あのねえ、人の肌がそんなもんで劇的に綺麗になるなんてあり得ないよ。
 ところが、どこからどう渡ったのか分からないが、その医者の奥さんと娘さんがこのシルク入り化粧品を使ったのだそうだ。数ヶ月後、

 「これ、凄い! 肌がスベスベで白くなった!」

 以来、この医者は社長に頭が上がらないのだとか。

 写真を沢山見せてもらった。毎日の水仕事で手の指の股が荒れて白くなっていた魚屋さんの手が、普通の手に戻っていた。
 痣があった女性の足は、痣のない綺麗な足になっていた。
 写真はないものの、この会社にやってきた国の職員の顔がアトピーで真っ赤だったので、この抽出液を使わせたところ、3ヶ月で顔が綺麗になった。そんな話も社長の口から出た。

 「だけど、パンフレットを見ても、どうしてシルクが肌にいいのかわからない。もう少し科学的な説明をしないと、シルクって何となく肌に良さ そうじゃない? 自然だし、というイメージ商品になってしまう」

 と話した。

 「なるほど」

 と社長はメモをしていた。

 原料に使っているのは、絹の毛羽。カイコが最初に吐き出す糸である。これは製品としての絹糸にはできない。だから処分する敷かなく、単なる産業廃棄物だった。
 ところが、タンパク質は燃えにくい。肉を完全に焼いて体積を減らすにはかなりの時間がかかる。人間を焼くのも大変な時間がかかる。だから、この毛羽を廃棄するにもかなりの費用がかかっていた。
 ところが、カイコが最初に吐き出す糸だけに、一番栄養があるところでもある。糸になった絹糸に比べ、エキスは20%多いのだとか。社長はここに目をつけた。
 多大なコストをかけて処分していた毛羽をただで持っていってくれる男が現れた。最初は喜んで、無料で渡してくれた。ところが、それから商品を作り始めると、買ってくれ、といいだした。現在、1kgが2800円。
 1人の男の着眼が、コストをかけて廃棄していたものを商品に変えた。

 「まあ、原料として考えればそれほど高くもないし、いいけどね」


 面白い。桐生とは、様々な可能性が眠っているところである。

 

前の日誌                 next
無断  メール