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 2010年4月21日 もったいない

 昨日、いま住む桐生の家に工事が入った。ちょいとした不具合があったのである。

 不具合が見つかったのは、かれこれ2ヶ月ほど前のことだ。キッチンの床の一部がはげていた。
 といっても、理解しにくかろう。詳細にご説明する。

 いま住む家は、私が寝室に使っている畳敷きの6畳をのぞいて、すべて板張りである。板張りといっても、最近の家は、合板に化粧板を張り付けたパネルを敷き詰めるのだが、まあ、それでも板張りである。この家は、水が飛び跳ねることが多いキッチンも、同じパネルが敷き詰めてあった。なかなか贅沢に見える。

 ところが、2ヶ月ほど前、キッチンの床の一部で、合板から化粧板が浮き上がり、しかも、浮き上がった化粧板が割れて剥がれ落ち、合板が顔を出した。顔をのぞかせたのは縦横5cmほどの小さな部分だが、その周囲も化粧板が浮き上がっている。合板が顔をのぞかせる範囲が広がるのは時間の問題だった。

 キッチンの主である妻に指摘されて現状を確認した私の頭が回転を始めた。まず頭に浮かんだのは、

 「なんでこんな事が起きる?」

 であった。通常、合板に貼り付けられた化粧板には防水処理が施されている。水がしみこんで接着剤を溶かし、化粧板が剥がれ落ちるのを防ぐためである。そりゃあ、建ってから20年も30年もたっているのなら、防水機能が衰えることもあろう。特に、手入れを怠ればそうなる危険は増す。だが、この家は建って7〜8年である。まだ防水機能が衰える年代には達していない。
 では、何故?

 住み始めたときから、妙に床の傷が多い家だった。それも、あえて堅いものを床にぶつけたような傷である。たまたま食器を落としたり、子供が玩具で引っかけたりした傷ではない。いや、床だけではない。壁に穴が開いているところも数カ所見受けた。家主さんは、ここで夫婦生活を営んでいたというが、何となく、

 「おいおい、どんな家庭生活だったんだ?」

 と覗き見趣味を呼び起こすような傷である。

 ひょっとしたら、化粧板が剥がれた箇所にも傷があったのではないか? それも相当に深く、化粧板の防水面が傷ついていたのではないか? そこから流しからはね落ちた水がしみこみ、接着剤を溶かしたのではないか?
 合理的な疑いである。まあ、そんな推理をしても仕方がないといえばその通りだが……。

 次に考えたのは、どうするか、である。店子の私からすれば、どうでもいい話だ。暮らしていくのに、床の化粧板のほんの一部が欠落しても支障はない。未来永劫この家に住むわけでもないから、住んでいる間だけ快適であればいい。現に、妻はその部分にセロテープを貼り、それ以上の水の侵入を防ぎながら使っていた。それ以上の知恵が浮かばなかったのであろう。

 が、私も横浜に家を持つ。もし、横浜の我が家で同じ事が起きたらどうする? このまま放っておいたら、もっと広い範囲で床の化粧板が剥がれ、合板が顔を出す。どうする?
 修理する。不具合は、できるだけ初期に対処する。それが、家を長く使うコツである。

 と考えて、この家の管理を請け負っている会社に電話した。床の化粧板の一部が剥がれている。何とかしてほしい。

 こちらは、親切心で告げつもりだった。家主は直ちに応じるものと信じて疑わなかった。ところが。
 1週間たっても2週間たっても何の反応もない。3週間目、しびれを切らしてまた電話をした。

 「どうなってる?」

 くどいが繰り返す。床の化粧板の一部の剥がれは、私の暮らしに何の支障もない。支障が出るのはこの家の将来である。

 「はい、何度もお話ししているのですが、家主さんからまだ指示がないものですから」

 どうやら、この家の家主さんは世間知に欠ける方のようだ。修理が必要な箇所が見つかれば、直ちに対応するのが、家の持ち主として、その家を貸し出している家主として当然ではないか?

 やっと2週間ほど前、工事屋さんが下見に来た。待ちに待った家主さんの許諾が出て修理にかかるのだという。

 「どんな修理をするの?」

 自分の家ではないとはいえ、現在はここに住む立場だ。関心はある。

 「はい、キッチンの床にクッションフロアを貼ります」

 唖然とした。えっ、せっかく床全部を同じ床材で張っているのに、キッチンだけクッションフロアにするの? それって高級感に欠けるぜ。贅沢な雰囲気が壊れるぜ。

 「でも、キッチンの床にだけクッションフロアを張ったら既存の床とは段差ができるんじゃないの?」

 「はあ、少しは。でも、その部分にはつなぎを入れますから」

 まったく信じられない補修工事をする家主である。

 「それって、もったいないんじゃない?」

 「はあ、でも家主さんがそうするとおっしゃっているんで、我々では何とも」

 トンチンカンな答えを聞いて、もしこの家が私の家だったらどうするか、考え始めた。
 聞くと、床のパネルは長さが180cmある。しかも、パネルの左右には凹凸があって、それを組み合わせることで隙間をなくしている。だとすると、パネル1枚だけの交換は難しい。

 だが、手がないわけではない。
 パネルは、あたかも木のブロックを組み合わせたように成形してある。これがヒントである。

 解法その1
 1ブロック分の化粧板を取り去り、似たような木目の化粧板を張り付ける。既存部分との間は防水処理をする。

 解法その2

 1ブロック分を合板共々切り抜き、同じ厚みの板に化粧阪を貼り付けて埋め込む。既存分との間には防水処理を施す。

 どちらかといえば、解法1の方がお奨めである。なにより簡単でコストも安い。第一、すべて板張りというフロアの豪華な感じを殺さない。色合いや木目で周りとやや違和感があるかもしれないが、せっかくの板張りの一部をクッションフロアなどという安っぽい物に替えることと比べれば、遙かにましである。

 「と思うんだけど、どう?」

 工事の責任者に問うた。

 「はあ、家主さんがおっしゃるので」

 要を得ない返事が戻ってきた。ひょっとしたらこの業者、そんな提案をしていないんではないか? 1人で3時間もあればできる化粧板の張り替えより、大人3人で半日かかるクッションフロアへの変更の方が利益が大きい。そんなよこしまな考えにとらわれたのではないか?

 「でも、これが俺の家だったら、建った7,8年で表面の化粧板が剥がれてしまう材料を使った建築業者の責任を追及するけどね」

 反応はなかった。
 昨日、朝9時前から始まったクッションフロア張りの作業は、午後1時前までかかった。
 ご苦労さん。

 でも、できあがった床を何度見ても、美しくない。しかも、この家は床暖がはいっている。クッションフロアとその下にある木製の床の膨張率は異なるはずである。そんな過酷な環境で、接着に使われたエポキシ樹脂がいつまで持ちこたえるのか。

 「あれっ、端の方が剥がれて来ちゃったよ」

 という日は、遠からずやってくるはずだ。

 もったいない。心からもったいないと思う1日だった。
 ああ、もったいない

 

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