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 2010年4月10日 入学式

 いまの時代、愛情は残すところなく、相手に分かるように表現し尽くさなくてはならないものらしい。
 知ってもらえなくてもいい。でも、熱い思いは自分の胸の中で燃やし続ける。そんなスタイルは、すっかり時代遅れらしい。

 「ねえ、あの男の子、何かいいんだけど」

 「えっ、惚れちゃったの?」

 「いや、まあ、そうかもしんないけど」

 「告っちゃいなよ。告って、ホテルに誘ってさ、一発やってきなよ。それであいつ、あんたにメロメロだって」

 そんな会話を耳にしたような気がした。やや旧聞に属するが、確か2日前、NHKのニュースでやっていた大学の入学式の風景である。

 何でも、子供の入学式に、仕事を休んでまで出席する親やジジババが増えすぎて、入学式に1万4000人収容の武道館を使い、しかも1回だけでは収容しきれないので入学式を2度に分けて実施する大学が増えているのだそうだ。
 念のために繰り返しておく。幼稚園や小学校の入学式ではない。最高学府である大学の入学式である。

 「そりゃあ、子供の晴れ舞台ですからねえ。親としては一緒にいたいですよ。はい、会社は休んできました」

 「私たちの頃は、親が入学式に来るなんて恥ずかしい、って思っていたんですが、いまは誰に聞いても出席するという。それなら、というんで。はい、仕事は休みました」

 「まあ、親が喜んでくれるのはありがたいですね。入学式に来てくれて嬉しいですよ」


 阿呆な面で馬鹿な話をする親とガキが、次々に画面に登場した。

 おいおい、日本って、ここまでしまりのない国になっちゃったのかね。砂糖漬けみたいな、甘さしかない社会になっちゃったのかね。
 もう終わりだな。4年後、こんなガキどもから新入社員を選ばねばならない企業に同情したくもなる。できれば、就職氷河期が続いてほしい。こんな連中を社会の一員として受け入れたくない。

 砂糖水の中で育った子供は虫歯になり、肥満になり、糖尿病になる。何より、社会人になりきれない中途半端な生きものになる。それは万古不易の法則であって、だから

 獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす

 可愛い子には旅をさせよ


 ということわざがある。

 子供が可愛いと思う気持ちは人一倍あっていい。でも、子供の成長のために我慢することを知らない親は、愛故に子供をスポイルする。
 落語で、蝶よ花よと育てられた若旦那が笑い飛ばされるのはそのためである。

 いいですか、お父様、お母様。
 お子様方を愛するのは美しいことです。時折、我が子を虐待して死に至らしめた親が逮捕されたりしておりますが、あのような親に比べればあなた方は遙かに立派な、愛情深きお父様、お母様でいらっしゃる。

 お子様を全身全霊で慈しむ。すべてをこの子、この子たちに捧げる。美しい親の愛情であります。

 だけど、人の世とははかないものです。どれほど自分の子供に愛情を注ごうと、尽くそうと、変えられないことがあります。

 あなた方は、通常、子供より先に死ぬのです。
 子供は、通常、あなた方の目の届かないところで暮らしを立てねばならないのです。

 であれば、親の愛情の最大の表現は、子供に自立を促すことだとはお考えになりませんか?
 1人で生きていく力を身につけろと、ある時は子供を突き放すことだとはお考えになりませんか?
 もう大学生か。この機会に、子供に自分の足で立つことを身をもって教えてやろう、と思いませんか?

 あなた方は、ひょっとしたら、子供の入社式にまで顔を出されるのではありませんか? こんな世の中です。ひょっとしたら、入社式に親用の席を設けてくれる企業が現れないとも限りません。いや、いまは就職難の時代ですから、そんな無駄な費用と労力を使う企業があるとは思えませんが。

 この親にしてこの子あり。
 18歳にもなって、親が入学式に参列するのを唯々諾々と許すばかりか、喜んでまでいるガキどもに、何をいったらいいか。いや、何をいえば伝わるのか。
 ……、わからん。

 お前ら、反抗期はあったのか? 反抗期とは、いつまでも親の庇護の元で生きていくわけにはいかない人類のDNAに仕込まれた自立のための自動プログラムなんだが……。
 反抗期を経なかったヤツって、ろくな大人になれないぞ。
 もし反抗期がなかったのなら、君の中のプログラムが壊れているわけだ。だったら、手動で動かすしかない。明日から親に反抗しろ!
 
 気の抜けたビールのような専門家のコメント(「少子化がこんな時代をもたらしたんですね」)を含めて、我が国の先行きに惨憺たる思いを抱かざるを得ないニュースではあった。

 

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