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 2010年2月9日、10日合併号 プリウス

 正直、トヨタの車にはまったく関心がない。私の物欲を刺激する車が皆無だからである。トヨタの高級ブランド、レクサスの新車をプレゼントするといわれても、お断りするしかない。あんな車に乗ってハンドルを持つ自分の姿が想像できない。

 一種のエコブームに乗ってプリウスという不格好な車が飛ぶように売れているといわれても、

 「ああ、そうですか」

 としか思わない。プリウスを高級にしたSAIという不思議な名前の車が出ても、見に行こうとすら思わない。
 何故だろう?

 最近、しばしばテレビでお目にかかるトヨタ自動車の横山裕行常務役員の話を聞いて、

 「ああ、そうか」

 と思った。
 プリウスのブレーキの不具合が問題になり、その釈明会見をした横山さんは、こうおっしゃった。

 「お客様の感覚と車の挙動がいささかずれていたと認識していた」

 安全上の問題とは考えていなかった、という。この方、トヨタでは品質保証を担当していらっしゃるらしい。

 そうか、トヨタの車って、ドライバーの感覚と車の挙動がずれても、何の問題もないと考えている人が品質保証担当をやっている会社が作ってるんだ! 
 私は車の運転を始めて40年になる。といっても、レーシング・ドライバーではないし、テスト・ドライバーでもない。ごく普通のドライバーである。
 でも、それでも思ってしまう。私の感覚と違う動き方をする車には絶対乗りたくない。いま見に行きたい車は、フォルクスワーゲンのゴルフである。どうでもいいが。

 エンジンをかけ、サイドブレーキを開放し、アクセルを踏む。こうすれば、車が動き出すはずだからである。急発進すると危ないので、静かにアクセルを踏む。こうすれば車はゆっくりと動き出すはずだ。それがドライバーの感覚である。
 その時、車が急発進したら? 

 ゆったりとした右カーブにさしかかる。この程度のカーブならハンドルをわずかに右に切ればいい。と思って少しだけハンドルを右に切ったら、車が急に右に切れ込んだら?

 どちらも危険である。止まろう、減速しようと思ってブレーキを踏んだのに、ブレーキのきかない時間が1秒前後(この時間は新聞報道による)もあったら? ドライバーとしてパニックにおそわれないか?

 横山さんのおっしゃる

 「車の挙動がいささかずれていた」

 ということは、やや大げさにいえば、そういうことである。

 考えてみてほしい。時速50kmで走る車は、1秒間に13.89m進む。ブレーキを踏んだのに14mもそのままの速度で走られたのでは、事故にもつながりかねない。
 それって、いささか、か?

 今回のトヨタ車のリコール騒ぎに、私は慎重な見方を続けてきた。信じられないほど運転が下手なドライバーは実在するし、その人たちが、自分の技量の未熟さを棚に上げて、自分の事故は車の欠陥が原因だと騒ぎ立てることもあると考えたからである。
 一般紙に車がよくわかっている記者は皆無に近い。だから、新聞を読んでもプリウス問題の本当のところがよく理解できなかった。いずれは日誌で触れようとは思っていたが、せめて「マガジンX」が取り上げて分析してからにしようと思っていた。

 が、横山常務役員の話を聞いて、本当のところがわかったような気がした。この人、品質保証担当でありながら、ドライバーの感覚と車の挙動の関係をこの程度にしか考えていないんだ。


 ここまで書いたところでお迎えが来た。飲み会である。自宅兼事務所の前に車を横付けした車のドライバーから呼び出しを受けた以上、

 「もう少し待って」

 とはいえない。とりあえず、9日の執筆は中断。これから先は10日に書く。 よって今回は合併号である。


 この人、自分で車を運転するのだろうか? 運転しながら、自分の感覚と車の動きがずれたら、

 「自分の運転の仕方が悪い」

 と考える人なのだろうか?
 こんな人が作る車には、絶対に乗りたくない。

 今日の各紙朝刊は、トヨタ自動車がプリウスなどのリコールを届け出たことを一斉に書いている。
 それによると、時速20kmで走行中にブレーキを踏んだときにABSが作動すると、一般的なABS装着車より0.06秒長い空走感があるという。
 私の知る限り、ABS、つまりアンチロック・ブレーキング・システムは滑りやすい路面で急ブレーキをかけたときに前輪がロックするのを避けるシステムだ。前輪が完全に回転をやめると車は勝手に滑り始め、ハンドルでの制御ができなくなる。だから、短時間ブレーキを開放して前輪が回転するようにし、次に瞬間にはブレーキを働かせる。こうしてハンドルで車の進行方向を制御できるようにするものだ。私の記憶では、車が安全な速度になるまでこれが繰り返され、ガクッ、ガクッ、ガクッ、という衝撃がドライバーに伝わる。
 つまり、ABSが正常に働けば、必ずブレーキペダルを踏みつけているのにブレーキがきかないと感じる時間が何度か繰り返される。

 さて、新聞記事だと、このブレーキがきかない時間が通常より0.6秒長いとある。おかげで、ブレーキを踏み始めてから車が止まるまでの距離が70cm長いのだそうだ。
 この説明がよくわからない。先にも書いたが、ABSが働けば、空走感は何度か繰り返される。空走感は1回あたり0.06秒長いのだから、たとえば5回の空走感があるとすれば合計で0.3秒の空走感があるはずだ。制動距離も3.5m長くなることになる。
 止まりたいところから3.5mも行きすぎないと止まらないというのは困った話だが、そんなことに触れた記事はどこにもない。
 それとも、私の計算間違いか?
 あるいは、時速20kmだと、ABSシステムが前輪のロックを開放するのは1回だけなのか?

 それに、だ。
 時速40km、50kmで走っていて急ブレーキをかけたらどうなるのか? 実際に車を運転していれば、時速20kmで急ブレーキをかけるケースより、40km、50kmからの急ブレーキの方が多いと思えるのだが。
 取材した記者は、そんな質問をしなかったのか? 自分で車を運転し、ABSが作動した経験があれば、そんなことが気にならないはずはないのだが。

 もう一つ。
 新聞やテレビには、問題になったプリウスを持っている社員はいないのか? 持っていたら、実際にABSが作動する走らせ方をする。同じ条件でほかのABS装着車を走らせて、問題になったプリウスが実際に危険なのかどうかをレポートする。そんな記事が読みたいのだが、いまのところ無い物ねだりらしい。
 あるいは、トヨタに頼んで試乗させてもらってもいい。応じてもらえるかどうかは不明だが。

 ちなみに、私の車でABSが作動したほとんどのケースは、路上にある金属製のマンホールの蓋や溝の蓋を乗り越えるときにブレーキを踏んだ時だった。

 
 しかし、トヨタの品質保証担当横山さん、あなたの対応のまずさで、プリウスのブレーキが本当に危険なのかどうかとは関係なく、とうとう社長が2回も記者会見を開いて謝罪しなければならなくなった。ここから出てくる結論は1つだけである。社内にしか目を向けない企業官僚が企業の危機を招く

 そうそう、 WOWOWが三菱自動車の大型トラックの脱輪事故を扱ったドラマ「空飛ぶタイヤ」を放映したのは昨年だった。そこでも問題をこじらせたのは社内事情を優先し、自分の、自分たちの車内での保身に汲々とする官僚どもだった。

 「いるいる、こんなヤツ、うちの会社にも

 そんなことを考えながら全5回のドラマを面白く見たが、トヨタさん、おたくの会社も例外ではなかったんですねえ。

 

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