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 2009年11月23日 マフラー&ストール

 瑛汰との奮闘、それによる疲れは前回書いた。
 とはいえ、具体的な事実にはほとんど触れていない。それはおいおい書くことになるはずだ。お待ちあれ。

 あれほど疲れていたのに、瑛汰抜きで一晩寝たら元に戻った。まだまだ私は若い。ご心配なきよう。いや、誰も心配なんかしていないか……。

 瑛汰が去った翌日の土曜日から、長男夫婦がやってきた。 やってきたというより、招き寄せたという感が深い。

 きっかけは、長男の嫁が買ってくれた、携帯電話用のハンズフリーのヘッドセットである。思いも寄らぬプレゼントだった。
 自分でBMW320 ツーリングワゴンを操りながら、私は仕事をする。運転中に電話を受けることもある。安全のためにはハンズフリーのヘッドセットが必需品であると思い、桐生に赴任する前に前に買った。横浜でテストを繰り返し、万全の体制で仕事に臨んだ。

 ところが、である。お使いになっている方、あるいは店頭でご覧になった方にはご理解頂けると思うが、なにしろ、こいつ、小さい。いや、大きいのもあるのだが、それは嵩張る。だからできるだけ小型で使いやすそうなものを選んだのだが、小さいものはなくなりやすいという欠点があることを忘れていた。
 悪いことに、車を離れれば不要のものと化す。小さいからポケットに入れる、車に置いてくる。そんなことを繰り返していたら、いつの間にか所在不明になった。

 携帯電話の会社に勤める長男にそんな話をしたら、

 「社内に転がってるから、持って行くよ」

 という話になった。やがて韓国・サムスン製のヘッドセットが届いた。ところがこいつ、社内でのテスト用である。充電器のプラグが韓国仕様で日本のコンセントに合わない。だから充電ができない。日本のプラグを外国のコンセントに合わせるセットは秋葉原に行けば手にはいるが、逆の製品はどこに行けば手にはいるのだろう? 充電ができねば使えないから、何とかしろよ、といっているうちに、日本のコンセントでも使えるものが長男から届いた。

 「これ、保証書だからとっておきなよ」

 と息子に手渡されたのはヨドバシカメラの領収証である。

 「何だ、わざわざ買ってきたのか?」

 といぶかる私に、

 AKIKOがお父さんに、って買ったんだ」

 という返事が返ってきた。AKIKOとは息子の嫁である。結婚3年、同じ会社に勤めておる。

 吉田兼好も書いたように、ものをくれる人は良き人である。うん、AKIKOは良き人である。だが、仮にも私は彼女の義父だ。義理の娘からもらいっぱなしというのも何だかなあ、と考えていて、ふと思いついた。

 息子が選んだAKIKOはなかなかの美形である。美形は飾り立てればさらに美しくなる。

 「桐生に、松井ニット技研、というニットメーカーがあって、そこのマフラーはニューヨーク近代美術館で5年連続で売り上げ1位なんだよ。その色遣いは日本のミッソーニだという人もいる。松井ニットのホームページで見てみてよ。もしほしかったら、お返しに買ってあげる。桐生においで」

 AKIKOと電話でそんな話をしたのは、先週の中頃のことだ。翌日、

 「ほしい」

 という電話が来た。21日土曜日、息子夫婦が我が家にやってきた。奴らにしたら、想像を絶するクイックレスポンスである。加えて、3連休の初日は高速がパンパンに渋滞するのは常識だ。それでもやってきた。松井ニットのマフラーがよほどお気に召したと見える。

 母親というのは、こよなく息子が愛しいものらしい。瑛汰の来襲でかなり疲れているはずの妻が、息子夫妻の来訪に舞い上がった。

 「お父さんが買ってくれるっていうんだから、遠慮なく買ってもらいなさいよ」

 到着早々、荷物を片づける時間も惜しみ、そんな妻の声を背に、松井ニットに出かけた。

 AKIKOのマフラーはすぐに決まった。いや、私が決めさせた。AKIKOは決めるのが苦手である。あれもいい、これもいい、と迷いに迷い、延々と時間を消費する。その性格がわかっているから、私がアドバイスした。

 「君は派手やかな顔立ちをしているから、パッと明るい色遣いのマフラーが合うと思う。このピンク系がいいと思う。もし気に沿わないんだったら、こちらのブルー系だな」

 直ちにピンク系の採用が決まった。AKIKOにしては、この短時間での決断は記録ものである。
 マフラーが決まれば、すぐに手袋も決まる。松井ニットには、マフラーと対になった、円筒形の素敵な手袋があるのだ。これも松井ニットのホームページで確かめて頂きたい。

 そこまでは、予定のうちだった。なにせ、ヘッドセットを買って頂いたのである。その程度のお返しはしなければなるまい。

 AKIKOは彼女の弟と、自分の友人にマフラーを1本ずつ買った。息子は自分用にマフラーを1本買った。
 そこでおしまいにならなかったのは、私の人の良さなのか、松井ニットへの敬意なのか。

 「松井ニットには素晴らしいシルクのストールがあるんだよね。見てみる?」

 松井ニットのシルクストールには、白、ベージュ、黒、ピンク、ブルー、グリーンの6色がある。使いやすいのは白か黒だろうが、私の好みはグリーン、あるいはブルーだ。が、まあ、私が使うものではない。私の愛する人にプレゼントするのでもない。AKIKOが自分で色を選ぶしかない。全色出して頂いた。

 「やっぱりこれがいいね」

 と彼女がいったのは黒だった。うん、これもなかなかシックでよろしい。

 次はサイズである。普通サイズは8190円、豪華サイズは13650円である。

 「そうねえ、やっぱり大きい方が使いやすいみたい」

 そうか、そうか。

 来週結婚式だよねえ。この黒のストールがあったらいいかなあ。買おうかな。どうしよう。でも、今日はマフラーと手袋を買ってもらったし、次にしようかな」

 と旦那である私の息子をのぞき込む。

 
「買えばいいんじゃないの」

 と息子は答えている。ここまで話が進めば、私が口を挟まざるを得ない。

 「買っちゃえ。
買ってあげるから」

 AKIKOがあわてていった。

 「いいですよ。お父さんには十分買って頂いたし。ストールは自分で買いますから」

 「いいよ、ものはついで、さ」


 当初の予定は、マフラーと手袋のプレゼントだった。ストールは予定外だった。

 「ま、俺に金があるうちはたかればいいよ。俺に金がなくなったら、
こっちからたかりに行くからさ」

 こうして私は、ものをあげる
良い人になった。
 まっ、いいか。

 その日の夜。妻が四日市の長女に電話をしていた。

 「今日、AKIKOさんが買ってもらったシルクのストール、手触りも織りもすてきよ。これは優れものよ。世界中で、ここでしか織れないシルクストールなんだって」

 電話を終えた妻が私にいった。

 「私は買ってもらってない、っていってたわよ」

 そうか、そういえば鶴見にはもう一人娘がいる。この娘にもストールは紹介していない。ふむ、私は当面、いい人を続けざるを得ないようである。
 おい、財布、
大丈夫か?

 

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