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 2008年5月26日 テル、逝く

 らかす日誌「2008年3月9日 見舞い」で書いたテルが逝った。先週末、23日夜だった。
 24日、2箇所からの連絡で知った。知らせてくれたのは「2008年3月9日 見舞い」に登場したM嬢と、故郷・大牟田市に住むK嬢である。我が高校の同期会も、ネットワークは機能している。

 食道と腸を直結する手術を医者が見送った、と知った時からこの日は覚悟していた。見舞いに出かけたのはそのためだ。だから、知らせには驚かなかった。口から一切の食物、水分を摂取できない状態で、よくぞいままで生き延びた。頑張ったな、テル!
 が、寂しい。テルはまだ58歳である。早すぎる。

 これまでか書かなかったが、大阪での見舞いから戻ったら、テルからメールが来ていた。それからほんのしばらくの間だが、メールをやりとりした。テルと、文章でやりとりしたのは、私が記憶する限り初めてだ。

 私信である。本来ならば公開すべきものではない。だが、テルが旅立ったいま、メールの全文をここに収録することにした。テルがどんな男であったのか、彼の一端を知って頂きたいと考えた。
 私なりの追悼である。テルは怒るかな? まあ、どこに行っても、怒るぐらいの元気があった方がいい。
 なお、固有名詞は頭文字をアルファベットに,宗教団体名は※※※※とした。あとはそのままである。また、文頭の数字は、交信日、行頭が下がっているのが私である。

 

0309
昨日はわざわざのお見舞いどうもありがとうございました。同期会は盛り上がりましたか。
  0310
記憶とは頼りにならないもので、M君、T君のどちらも、覚えがありませんでした。それでも、飲んでいれば何となるもので、ホテルに戻ったのは11時頃だったかな。
飲めるまでに回復する日を待っています。
0310
抗癌剤の投与が始まりましたが、とくに不快感は有りません。
  0310
気力、だろうよ、最後の決め手は。捨てるな。
0310
癌細胞は本来患者を殺したくないはずだ。患者が死んだら、癌自身の破滅だ。気力と運だろう。
  0311
時折、頭が悪くて自分が何をしたいのか分からないヤツもいる。注意を怠るな。
0311
多分こう行動するだろうと想定していても、そうならない場合がある。生物はそうやって進化してきたのかもしれない。
  0311
生き物はまず極めてシンプルなものが生まれ、それが進化して様々な種を生み出したという説に対して、生き物はカンブリア紀に様々なものが一斉に生まれ、偶然生き残ったものが環境に合わせて進化してきたという説が最近あるそうです。「 ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 」という本で最近仕入れた知識です。学問とは面白いものです。
0311
百億の昼と一億の夜だったかな?生物の進化は神の壮大な実験という小説があった。
  0311
神の実験許すまじ、が科学だったと思うが。無論、当初は神の意志を知ろうという動機もあったが。
0311
科学がどれだけ発達しても、不可能なことは残るだろう。例えば宇宙の再生とか。
  0312
何を神と呼ぶかは別として、そのようなことが神にできるという証明もない。できるものを神と呼ぶのだ、といえば同義反復になってしまう。
0312
今日は反論が返ってこないが、気分が優れないのかな?
0312
そんなことはない。神には二種類あるのではないのかな。個人の利害得失に関与する神とそうでない神。同期会のNさんの神は前者の神かも。ブッダは神ではないけど、宇宙の摂理をイメージしている。
  0312
反論が戻ってきて安心した。
神が2種類いたら、内戦が起きないか?
世の宗教は、唯一神か多神教かのどちらかだと思っていたが。
ところで、同期会のNさん、って誰? 俺は知らないぞ。
0312
信じるモノが一つであれば争いが起きても仕方がない。日本古代の受仏論争はまさにそれだ。NのことはSちゃんに聞いてくれ。
  0312
いや、俺が言ったのは、神同士が争わないか? ということだ。人間の争いのような下界のことではない。
Nって、ひょっとして※※※※か?
0312
神は争わない。信じる人間が争うのだ。
  0312
人間社会の原型は3人の社会だと読んだ記憶がある。1人では社会にならない。2人だと仲良くなるか争うかの2つに1つしかないからこれも社会ではない。ねえ、神も2人しかいなかったら、仲良くなるか喧嘩するかしかないじゃないか。
話題を変えないか? このあたりまで来ると、あまり意味のない議論だ。神が争うか、争わないか、判断するのは不可能だから。

0313
マッサージに行ってきた。もともと、頸椎のいくつかが、本来ロの字型になっていなければいけないのがコの字型に変形し、おかげで肩凝りやら肩から手にかけての痺れがあるために通っている。いまは合わせて腰痛。先週の木曜日、車の後部座席で次女の子ども(1歳8ヶ月)をチャイルドシートに座らせるため体を捻って作業していたら、左腰の筋肉が固まった。これも合わせて治療中。
そんな年代になってしまった。
0314
Nの宗派は不明。年がいったら、病気の種は連続的に見つかる。お大事に。
0314
Nは先祖供養の一派だ。訳の分からないものを高額で売りつける集団だ。
  0314
そんなことをしなければ暮らしていけないとは。哀れなものだと思う。
0314
人間はあはれなものだよ。
  0314
壬生義士伝という映画があった。その中に
「美しい女は嫌いじゃ。人は皆、薄汚いくそ袋に過ぎんのだからな」
という台詞が出てくるのを思い出した。
哀れなだけが人間かな?
0314
人間が「あはれな存在であること」も押さえておいていいんではないのかな。
糞袋は今昔物語集に出てくる。
  0314
出典は今昔物語なのか。シナリオライターも結構勉強しているものだな。1つ賢くなった。

0314
俺も結構勉強したよ。

 

 ベッドに縛り付けられたに等しいテルは、携帯電話を使った。私はパソコンである。文章の長さでお分かりいただけると思う。
 私は、かなり緊張してメールを書いた記憶がある。生命論、神の存在、人間の存在について。テルから来るメールのレベルの高さにプレッシャーを受けたのだ。ベッドから動けず、食物も取れず、治療法もない患者が、こんなことを書く。
 記憶もしっかりした明晰すぎる頭脳で自分の死と向き合うテルに、一種の荘厳さを感じたのだ。
 テルとは、そんな男だった。

 「俺も結構勉強したよ」

 それでも、死ぬときは死ぬ。

 メールの交換はこれで途切れた。いや、実はこの後もう1通、土日は自宅にメールをくれ、と自宅のアドレスを書いたのを出したが、返信はなかった。体調が急変したのかと疑い、それからはメールを遠慮した。テルからも来なかった。

 25日日曜日が通夜、26日月曜日が葬式。どちらも参列しなかった。大阪まで出かけても、もうテルとは話せない。参列する意味はない。
 代わりに、弔電を打とうと思った。しかし、何を書いたらいい?
 一晩考えて、昨日の朝書き上げ、打電した。

 「テル、『湊屋藤助(みなとやとうすけ)』という酒を知っているか? 新潟・魚沼でできる酒だ。7年ほど前に知ったが、美味い。君と酒を酌み交わしたのはもう30年以上前のことだ。できることなら、この酒を飲みながら30年の時間を埋めたかった。とりあえず、それは叶わないことになったが、なーに、俺だっていつかはそっちに行く。今すぐではないだろうが、50年も待たせることもない。それまで、ほかの酒を飲みながら待っていろ。1本下げていく。コップ酒を飲みながら語ろう。なに、1本では足りない? わかった。2本でも3本でも下げていく。それまで待ってろ。俺の席を取っておくことを忘れるな。とりあえず、それまではさようならだ」

 原文は残っていないが、確かこんなことを書いた。
 異様な弔電かも知れない。が、私にはこんな弔電しか書けない。
 テル、この弔文、どう読んだ?

 あ、そうそう、家族に忘れずに命じておかねば。

 「俺が死んだら、棺に湊屋藤助を3本入れろ」

 テル、今頃は煙と遺骨になってるんだな。さようなら。


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