●日誌一覧

シネマらかす

グルメらかす

音らかす

旅らかす

スキーらかす

事件らかす

 2008年5月11日 始めたが……

 【材料を集める】
 愛車に飛び乗った私は、「島忠」に向かった。向かう私の脳裏には、完成した本棚の図がくっきりと浮かんでいる。       kanseiyosouzu
 この図を見て頂ければ、1本の釘も使わずに作られる本棚の仕組みがおわかりいただけると思う。側板は構造用棚板で押しつけられており、この圧力は最終的には柱で受け止められ、全体が固定される。従って、構造用棚板を取り外せば、全体はバラバラになる。
 なかなかに考え抜かれた仕組みである。私以前に、誰がこのようなことを考えたであろう?

 途中で次女と瑛汰を拾い、間もなく「島忠」に着いた。私が買い出しに従事する間、次女と瑛汰は「島忠」の店舗を走り回る。瑛汰は英気に満ちあふれている。通常の暮らしぶりでは疲れないのである。多少の疲れなしに心地よい昼寝はない。瑛汰に十分な昼寝を楽しませるための運動の時間として使うのである。

 まず、材木を選んだ。
 2×4材には歪みがあり、知らずに組み立て始めて大いに困ったことは、「事件らかす #5  年賀のご挨拶」でご報告済みである。失敗を繰り返すのは愚か者である。私は愚か者の対極にある人間だ。ここは慎重にならざるを得ない。

 6フィートの2×4材から始めた。歪みはないか、が着目点である。
 2、3本チェックするうちに、別の問題点に気がついた。カットが雑なのだ。切り口がうねっている。一方の端から他方の端を覗くと、水平な面ではない。道路に例えれば随所にうねりがある。こんな道路を車で走れば、ひたすら直進しても車体が左右に揺れる。手抜き工事されたに違いない道路である。
 2×4材とは、その程度の木材でしかない。

 それでも、まあまあまともに見えたものを13本選び出した。次は1×4材だ。
 同じように、歪みのないもの、切り口にうねりのないもの、割れのないものを選び出す。が、なにしろこいつは35本も必要なのだ。慎重に選ぼうと思っても、飽きる。11本目を手にするあたりから、選び方もいい加減になる。なーに、相手は木材だ。最終的には何とでもなる。

 10フィート材、12フィート材と木材は選び終えた。次は細々とした道具、材料を見つくろわねばならない。垂直ドリル、木工用ボンド、ウレタンニス、刷毛、木製ダボ、ダボ錐、ダボ用マーカー、棚受け。次々とかごに放り込む。
 お買いあげリストは以下の通りである。

 2×4材 12F     @798 ×2=1596円
      10F     @648×2=1296円
       6F     @ 298×13=3874円
 1×4材       @178×35=6230円
 垂直ドリル            1550円
 コニシ木工用ボンド        348円
 ウレタンニス           3280円
 刷毛               198円
 木製ダボ(8mm)    @105×20=2100円
 ダボ錐              800円
 ダボ用マーカー          298円
 ダボ棚受け (8mm)  @250×16=4000円

            合計:25570円

 ちなみに、木製タボ、タボ棚受けは、店頭にあったものをすべて買い占めた。足りないかも知れないという危惧はあったが、それしかないのでは仕方がない。

 垂直ドリル以下はたいした荷物ではない。車に放り込めばいい。だが、材木は別である。私の車はトラックではない。

 「すいません。材木だけは配送して欲しいんだけど」

 当初からの計画だった。材木が届くのは早くて夕方。まあ、普通に考えれば翌日曜日である。それまでは瑛汰の相手をして遊ぼう。

 「いやあ、旦那さん、こんだけあると、配送したらずいぶんかかりますよ」

 木材選びをアシストしていたおじさんが言った。といわれても、ほかに手段がない。私の車はワゴンだが、これだけたくさんの木材は積めない。ましてや、12フィート(約3m60cm)、10フィート(約3m)などの材木は入れるところがない。

 「と言われてもねえ」

 困惑しながら答えた。

 「軽トラックをお貸ししますから、ご自分で運ばれませんか?」

 へーっ、そんなサービスもあるんだ。

 「ふーん、で、レンタカーの代金はいくらなの?」

 当然の質問をした。

 「いや、いただきません。無料です」

 この誘いを断れるほど、私は金満家ではない。無料。高騰を続けるガソリン代を払う必要もない。これは、ワゴン車の運転手から、軽トラックの運転手に鞍替えするほかにどんな選択肢があるというのか?
 私は、一も二もなくこの誘いに乗った。

 駐車場の片隅においてあった軽トラックに乗り込んだ。運転席が狭い。私は身長182cmなのだ。足がペダルに近すぎる。これでは運転できない。
 シートを下げた。シートを下げれば、普通の車なら座面と背もたれが一緒に後ろに下がる。それが車の常識である。
 私は常識が通じない世界にいた。さすがは軽トラックである。何と、座面だけが後ろに下がった。背もたれは動かなかった。考えてみれば、背もたれの後ろには、下がるべきスペースがない!
 何のことはない。大腿部と背筋との角度が、120度から90度に変わっただけである。私は奇妙にアップライトなポジションで軽トラックのアクセルを踏み、木材が置かれている場所まで移動した。

 積み込みである。軽トラックもなかなかのものである。6フィートの木材はそのまま荷台に載せることができる。軽トラとはいえ、荷台はなかなか長いのだ。
 が、10フィート、12フィートの長さはない。こちらは座席の後ろの枠に斜めに立てかけるしかない。立てかけて、軽トラに積んであったロープで縛り付ける。走行中に動かないようにするためである。

 「さあ、帰ろうか」

 積み込みが終わったので、次女と瑛汰に声をかけた。次女が瑛汰を抱き、助手席に乗り込む。乗用車とバス程度にしか乗ったことがない瑛汰にとっては、生まれて初めての軽トラック体験である。といっても、まだ1年と9ヶ月少々しか生きてはいないのだが。そういえば、次女も軽トラックに乗るなんて初めてのはずだ。次女を乗せた車は、フォルクスワーゲン・ビートル、ゴルフ1,アコード、ゴルフ3ワゴン……。すべて普通の車である。
 私は学生時代、軽自動車に乗ったことがある。長じても、自宅近くの日曜大工店から材木を運ぶのに、店の軽トラックを借りたことがある。この2人、そのような労働体験はない。
 親子そろっての初体験である。

 「お父さん、軽なんだからね。注意してよ」

 次女が言わずもがなのことを言う。んなこと、言われなくても分かっている。
 最近の軽はよく走る。これで660ccのエンジンかと言いたくなるほど出足もいい。
 良くないのはブレーキである。我が愛車と比べれば、雲泥の差がある。踏んでもなかなか止まらない。おいおい、止まれよ、止まれったら! と力一杯踏み込んで初めて不見応えが感じられる。コストのかけ方の差であろう。
 ましてや軽トラックである。ボンネットもないのだ。これで何かにぶつかれば、我々の下半身はグチャグチャだ。とにかく、事故があって痛い思いをするのは次女だけではないのである。私は痛いことは嫌いである。
 何も言わず、物珍しそうに車内を見回している瑛汰が、ひどく奥ゆかしい人間に思えてくる。

 国道1号を、まず横浜方面に走る。遠回りだが、「島忠」からはそっちにしか出られない。間もなく左折、15号線に出て鶴見方面に走る。アクセル、ハンドル、ブレーキ。どれをとってもこれ以上ないほど慎重に操作する。

 ガタン!

 カーブを曲がったら、荷台で大きな音がした。いかん、荷物か崩れたか? ロープの締め付け方が悪かったか? 
 恐る恐るバックミラーで荷台をのぞき見る。ふむ、ロープで縛った長い木材は大丈夫なようだ。とすると、平積みにした6フィートの木材がずれたか。

 「島忠」から自宅までは、こんなに遠かったのか、と思い続けたドライブがやっと終わった。自宅の前に軽トラックを止め、まず次女と瑛汰を降ろす。次いで、荷台の材木をとりあえず駐車場に降ろす。手伝う者はない。孤独に、一人で降ろすしかない。12フィートを降ろし、10フィートを降ろし、6フィートの2×4材を13本、1×4材を35本……。
 次女と瑛汰はとうに家の中に入っている。妻が顔を出すこともない。連休の初日、汗を流して木材を降ろしているのは私一人である。
 所詮、男とは孤独な生き物である。

 軽トラックを戻しに行き、私の車で帰ってきた。午前9時半に意気揚々と出かけたというのに、もう昼食の時間である。
 はっ、午前中いっぱいかかって、たったこれだけしかできなかった……。道のりは遙かである。

 簡単に昼食をすます。一休みしながら、午後の段取りを考える。
 作業はすべて3階でする。午後最初の仕事は、木材を3階まで運び上げることである。運び上げたら、設計図に従って木材をカットし、サンダーで磨き……。
 ん? 12フィートもある木材をどうやって3階まで上げる? 階段の天井はそんなに高くない。横にして運び上げられるほど広い階段でもない。下でカットしても、いちばん長いものは3m30cmある。階段が使えないのは同じである。どうやったら3階まで持って上がれる?
 
 出だしから、考えても見なかった難問に逢着した……。

                                この稿、続く。

 

前の日誌                 next
無断  メール