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 2008年5月2日 手術

 右足の外くるぶしが内出血してることは、一昨日の日誌でレポートした。内出血だけかと思っていたら、よくよく見ると患部が青白くなっていた。

 「化膿したか?」

 念のため、昨日から家にあった抗生物質を飲み始めた。が、今朝になっても改善の兆しが見られない。明日から連休である。町医者も休む。これは今日のうちにけりをつけるしかない。思い立って、朝から近くの整形外科医を訪れた。初めて行く医者である。

 8時半過ぎに着いた。中に入って驚いた。まだ診察開始前というのに、ほぼ満員の盛況である。ご多分に漏れず、オジンオバンが肩をくっつけるようにして椅子を占領している。占領するだけでなく、世間話に余念がない。

 「ああ、これが医療費の支出を増やしているといわれるサロンね」

 それはいいが、これでは私の番が来るまでにどれくらいの時間がかかるのか。良かった。そんなこともあろうかと、文庫本を2冊も持ってきた。

 午前9時。診療開始である。看護婦さんが、次々に患者の名前を呼ぶ。たくさんのオジンとオバンが、吸い込まれるように一室に向かい、待合室はガランとした。この整形外科医はリハビリもやっている。サロンに寄り集まったオジンとオバンのほとんどは、リハビリ狙いだったのである。
 リハビリもただではない。この医者、なかなか商才がある。
 すぐに私が呼ばれた。診察室に入る。30代半ばと思しき男性の医師だ。

 「どうされました?」

 にこやかに問いかけてきた。医はあくまでサービス、患者さんが王様です。そんな笑顔だ。

 「いや、くるぶしが内出血しまして。なんか、化膿までしているようなんですよね」

 医者は幹部を診た。

 「ああ、これは立派に化膿してますね」

 私の見立てもまんざらではない。プロの医師と全く同じ結論を引き出していたのである。

 「一昨日の夜に気がつき、昨日から、自宅にあった抗生物質を飲んでいるんですが」

 と経緯を説明した。医者が言った。

 「それは良かった。うん、抗生物質が必要ですよね」

 ここまでプロと意見が一致すると嬉しくなる。嬉しくなると、さらに歩を進めたくなる。人間の性である。

 「だったらこれ、薬だけで何とかいけますかね?」

 できれば荒っぽい治療は避けたい。ほとんど苦痛のない薬で済むのならそれに越したことはない。ここまで意見が一致したのである。もう一つぐらい一致してもいいではないか?
 だが、プロはプロだった。

 「いや、これは切って膿を出す必要があります。そこのベッドに寝て下さい」

 あのう、さっき起きたばかりで、まだ眠たくはないのですが、などという冗談を飛ばすゆとりも与えない言い方だった。ここでプロに逆らってみても、私には何のメリットもない。
 ベッドに寝た。

 看護婦が医者にメスを手渡した。鋭い刃がギラリと光った。かどうかは確認していない。が、メスはギラリと光るもの、という世間相場に異を唱えるゆとりはなかった。
 何しろ、初めて手術なのである。私の体だから、玉体ではない。玉体ならぬ、この肥満体にはこれまで、メスなどという不浄のものが入ったことはないのである。私は、手術に関してはヴァージンなのだ。

 「痛いですか?」

 足下で、なにやら医者が言っている。

 「いや、痛くはないんですが、あれですかねえ、くるぶしのあたりって、痛覚が少ないんですかねえ」

 私の専門用語を交えた問いを、医者は完全に無視した。しばらくするといった。

 「はい、終わりました」

 ん? もう終わった? 何も感じなかったぞ。初体験って、そんなものかい?

 「いやあ、内圧がパンパンだったんですね。切ったらビュってふきだしました 「いやあ、内圧がパンパンだったんですね。切ったらビュって噴き出してきましたよ。これで大丈夫です」

 患部が消毒され、ガーゼが当てられ、包帯でぐるぐる巻きにされた。これで、見た目は立派な患者になった。馬子にも衣装、である。

 いま私は、右足首に包帯を巻いて生活している。病院を出たときには思いつかなかったが、このような格好でいちばん困るのは入浴だ。足首に包帯を巻いてどうやって風呂には入れというのか?
 考えてみれば、膿はすべて出た。ということは、残りは膿を出すために医者がつけた傷だけである。ということは、もう擦り傷、切り傷と同じ状態になっているのではないか? 擦り傷、切り傷程度なら包帯もせず、そのまま風呂にも入るぞ!
 とりあえず今日は、風呂は避けたが……。

 これも本棚作りの格闘の後遺症である。

 さて、高齢に従って今日の朝日新聞社説を。

 【物価上昇―インフレ・デフレ合併症】
 この社説子、
 「インフレとデフレの合併症を切り抜けるために、これまでの常識を見直すことから始めたい」
 と文章を締めくくりながら、常識とは無縁の生活を続けて来られたようである。
 「値上がりといっても、3月の消費者物価の上昇は前年比1.2%とまだ小幅で、デジタル家電など耐久消費財の値下がりが目立つ。技術革新の成果だが、消費が弱いからでもある」
 という一文を、さて、慧眼の読者はどうお読みになったであろうか?
 あちこちでインフレの芽が膨らんでいる中にも、デフレ傾向は残っているということをいいたいらしいが、デジタル家電の価格が下落するのは消費が弱いからか?
 私が、パナソニックのブルーレイレコーダー、BW800を手に入れたことは、この日誌をお読みいただいている方々の共通認識であると思う。
 何としても手に入れたかった。しかも、できるだけ安く手に入れたかった、価格.comで価格動向をチェックするのは私の日常行事だった。この製品は発売直度に13万円台まで下がったあと、ずっと品薄が続いた。品薄が続いて、一時は価格.comでの最安値が19万円に近づいたのである。
 これは消費が弱いからか?
 潤沢に製品が出回り始めると、価格は一気に下がって13万円台になった。ところが、本日ただいま現在の最安値は14万6180円である。価格.comで見る限り、在庫がない店はほとんどないから、品薄が原因で最安値が上がったのではない。売れるから上がったのである。
 需要と供給の力関係で価格が決まるのは、経済学の常識ではないか。
 とにかくこの方は、インフレとデフレが同居していると決めつけ、それが日本経済のピンチだという立場に立つ。そして、
 「回り道のようだが、日本経済の短所を立て直すしか、ピンチをしのぐ方法はなかろう」
 とご託宣を述べ、
 「企業には何といっても、コスト高を克服する技術革新が求められる。省エネ・省資源をさらに進め、代替エネ・再資源化などの技術を磨けば、国際相場を冷却する効果も期待できるし、新市場を開くことにもなる」
 「消費者も発想の転換が必要だ。行楽などではマイカーを控える。コメなど国産で生産にゆとりのある食料をもっと見直す。こんな足元からの行動で生活を守るしかない」
 と対処法をお説きになる。
 おいおい、いわれなくたって企業は原材料の高騰を何とかしようと血道を上げているって。日本車が世界標準になったのは、第1次石油危機で原油が高騰し、日本車の燃費の良さが評価されたのがきっかけだったではないか。いまは、トヨタ自動車が世界に先駆けて商品化したハイブリット車がファッショナブル商品になっているではないか。いまさら、何をお説教してるのよ?
 でね、行楽にマイカーを使わないのも結構だけど、それってインフレ対策? デフレ対策? いいかい、ガソリンで飯を食っている人たちは、ガソリンの消費量が減ったらどうなる? 販売量が減るのだから、当然利益が減る。その時、選択肢は2つしかない。人減らしをするか、価格を引き上げて利益を確保するか、だ。それが経済の常識である。
 なにかい? 首切りをしろっていうのかい? ガソリン価格をもっと高くしろっていうのかい? 
 ったく、常識を見直す前に、常識を蓄えろって!

 【移民100年―父祖の地で夢を支えよう】
 趣旨には賛同する。だが、パーツに異議がある。
 「日本語が苦手な親への支援にはNPOなどの協力が欠かせない。その費用は、日系人を雇って利益を上げている企業が手助けしてはどうか」
 というのはどうか。
 日系ブラジル人を雇用している企業に、どれがだけのゆとりがあると社説子は考えているのだろう?
 普通の経営者であれば、日本人の従業員を雇いたいはずである。言葉は通じる。生活習慣も大差ない。いちばんストレスが少ない。
 それなのに、日系ブラジル人を使う。日本人が来ないのだ。中小企業である。
 言葉が通じない。暮らしの習慣が違う。ストレスが高まるだけではない。経営効率も落ちるはずである。そんな経営者に、今以上の負担を求めるのか?
 せっかくの論旨が、机上の空論で台無しになる。この原稿を読むとそんな気がする。


 朝日新聞の社説を読み始めたのは4月3日である。3日坊主になるのではないかと懸念しながら始めたが、幸い、1ヶ月続けることができた。ということで、とりあえず、いったん休止する。まあ、こんなものか、という感覚が持てたからである。
 読んで役に立つものは、あまりありません。突っ込みどころがたくさんあるから、老化防止には役に立つかも知れません。
 というのが中間総括だ。私程度に人間にこれだけ書かせる論説委員諸氏は勉強不足である。生活不足である。大学卒業時程度の水準で世の中を切り裂こうとするのは無謀である。

 まあ、これからも、あまりにひどいと思ったら、取り上げることにする。
 えっ、ということは、あの面白くもおかしくもない社説を、読むだけは読むということか? うーん。

 1ヶ月間お付き合い頂き、ありがとうございました。



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