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 2007年11月25日 買い物

 朝から、日曜家族の全員で買い物に出かけた。
 日曜家族とは、私、妻、それに次女、その子瑛汰である。なぜこれが日曜家族かということは前回説明した。今回は省略する。

 日曜家族における役割分担ははっきりしている。
 買い物係は妻と次女。遊ぶ係は瑛汰。私は運転手兼瑛汰の飼育係である。人事異動が発令される気配は、今のところない。

 本日も、運転手である私はハンドルを握り、助手席に、何故か腰を前にずらして座っている妻を乗せて娘のマンションに向かった。
 腰は一番奥まで入れて座った方が楽だという私の心の子もたったアドバイスを、妻は毎回無視する。物覚えが極めて悪いか、あえて辛い姿勢をとって己の肉体を痛めて悟りの道を開く在家の修行僧を志しているか、いずれかである。私には、いずれが真実かは分からない。

 次女と瑛汰を伴って向かったのは、川崎のラゾーナ川崎プラザである。目的は、電子レンジの購入だ。前々回に書き記したように、我が家のオーブンレンジが廃家電となる運命をたどったため、それに変わる調理器具を買い求めるのである。

 が、ラゾーナ川崎プラザは巨大なショッピングモールである。駐車場に車を入れたからといって、直ちに目的の見せに足を運ぶとは限らない。本日もそうであった。

 駐車場が混んでいたため、最上階に駐車した。4人が車から降り、店内に入った。飼育係である私は瑛汰の手を引いて歩かせようと試みたが、今日は虫の居所が悪いのかだっこをねだる。飼育係は素直に従う以外の選択肢を持たない。瑛汰を抱いて店内に入った。
 店内にはいると、そこは4階である。ここには島村楽器という魅力的な店がある。悪い予感がした。

 「あら、島村楽器があるじゃない。ちょっと見ていこうよ」

 と言い出したのは妻である。私が

 Martinのギターがあったらいいなあ」

 とつぶやいても何の関心も示さないのに、妻は何故か楽器店が好きである。好きなら、私のつぶやきに熱いエールを送ってくれても良さそうなものだが。そういう配慮を妻に求めるのは、木によって魚を求めるのに似る。無駄な期待はしない方が精神衛生上よろしい、という程度の世知は、私の友である。

 瑛汰を抱いて島村楽器に向かった。子供は素直だ。店が近づくと私の胸から降り、自らの足で楽器店を目指した。確かに、私に抱かれていては楽器に触ることもできない。1歳と4ヶ月の判断力を馬鹿にしてはいけない。

 子供用のドラムセットに座らせる。かつて、長女の子供、来月3歳になる啓樹に買い与えようと試み、

 「マンションであんなもの叩かれたら、隣近所の迷惑でしょう」

 と長女に一蹴されたものである。
 しかし、成長しきって子供まで作ってしまった子供OBに比べ、現役の子供は素直だ。スティックを両手に持ち、4つあるタムタム、スネアドラムを次々と叩く。いい音がする。ハイハット、シンバルも混じる。バスドラムには足が届かないが。

 キーボード、シロホン……。瑛汰の関心は次々と移り変わる。言い換えれば、どれにも深い関心は示さない。
 が、握りしめて離さないものが1つだけあった。卵の形をしたマラカスである。持って動かすと、シャッ、シャッ、シャッと心地よい音がする。

 「瑛汰、行くぞ」

 声をかけても離さない。あれまあ、欲しくなったか。値段表を見る。200円

 「よし、じゃあお姉ちゃんにこれ下さい、しようか」

 かくして卵形のマラカスは瑛汰のものとなった。私の財布から100円玉が2個消えた。この程度の買い物であれば、妻を呼び寄せなくとも、私1人でできる。

 瑛汰を抱き上げ、ビックカメラに向かった。いよいよ、本日のメイン買い物、電子レンジを選択するのである。
 売り場に着いた。瑛汰はわが胸だ。少し眠そうである。電子レンジの売り場に向かう。高い。高級品は10万円近い。

 「温めるだけでいいの。ガスオーブンもあるし、トースターもあるから」

 妻がいう。もとよりそのつもりである。

 あった。シャープ製電子レンジ、RE-TD1。6980円

 「これ。これでいいわ」

 「こっちに松下製があるぞ。少し高いけど」

 「いいの。これがいいの」


 何よりも、価格を判断基準とする。妻をここまで躾る。我が手並みもなかなかのものである。
 瑛汰は依然、我が胸にいる。多少、腕がしびれ始めた。娘はどこかにとんずらし、形態電話で呼んでも来ない。仕方なく、その姿勢でRE-TD1の箱を1つ引き出し、レジまで運ぶ。体の弱い妻に持たせるわけにはいかない。

 本日の買い物、私には1つ狙いがあった。前々から欲しかったものがあるのだ。「パナソニックDIGA DMR-BW800」。ブルーレイ・レコーダーである。
 我が家には、ハイビジョンで記録した映画、音楽のテープが、恐らく800本ほどある。恐らく、というのは数えたことがないからである。これをディスクにしたい。前々からの夢であるだけでなく、部屋を広く使うには避けられない道なのだ。
 今秋になって、ブルーレイ・レコーダーの新機種が出た。「パナソニックDIGA DMR-BW800」はその1つで、一気に購買意欲を煽る新機能を搭載した。
 DVDに、ハイビジョン映像を録画できる。
 であれば、お金もあまりかからない。これは買うしかないのである。先日、そっとつぶやいてみたら、Martinには見向きもしなかった妻が、

 「そうねえ。必要だわね」

 といった。大蔵大臣の内諾を得た。それから毎日、私は「kakaku.com」を見て、最安値の研究に余念がない。つい先日まで15万6000円であった。本日ただいま現在は15万7500円である。
 私には大蔵大臣の内諾と、そのデータがある。よし、これは試みてみるしかない。
 店員を呼んだ。

 「ねえ、 DMR-BW800は幾らになる? ネットでは15万6000円なんだけどさあ」

 店員は電卓を取り出し、計算を始めた。

 「ネットって、どこですか?」

 「kakaku.comだよ」

 「いやあ、kakaku.comは参考になりません」


 といいながら、価格を出した。16万7500円。1万円も違う。

 「高いなあ」

 とつぶやくと、

 「ちょっと相談して、在庫を見てきます」

 と姿を消した。私は在庫には関心がなかった。在庫切れでも入荷を待てばいいのだ。問題は価格である。16万円を切ったら買おう。
 店員が戻ってきた。

 「在庫が1台だけありました」

 それはどうでもいいのである。

 「で、値段は?」

 彼は怪訝な顔をした。

 「あのー、 16万7500円ですが。それ以上はちょっと」

 即座に、本日の購入を断念した。

 私の見るところ、現在メーカーは、年末商戦に向けて生産を増強している。一番売れる時期に、在庫切れを起こせば商機を失うからである。だから、まもなく商品が巷にあふれる。
 あふれた商品は必ず売れ残る。そして、値崩れを起こす。私はそれを待つ。まもなく、15万円を切る。その時が買い時である。
 見込み通りになって欲しい……。

 瑛汰がうとうとし始めた。飼育係は、しいくたいs飼育係は、飼育対象がどのような状態でも飼育係であることに変わりはない。

 「食品買わなきゃなんないから」

 妻の声に従って、我々は1階に降りた。瑛汰は寝入っている。

 「お父さん、フードコートの前のベンチで待っててよ。瑛汰抱いてるの大変だから」

 娘は一応、私を気遣う。ありがたいことである。
 こうして私は、買い物係から排除された。ほかにすることもないので、娘の命に従ってフードコートに向かう。確かにベンチがあり、空き席がある。
 だが、2人が買い出しをする30分〜40分の間、ここで瑛汰を抱き、ボーっとしているのも芸がない。私は貧乏性なのだ。ボーっとした時間が何より苦手なのだ。

 フードコートのそばに、書店の丸善がある。本でも見るか、というのは、私のような貧乏性の中年男の時間のつぶし方である。
 ぐっすり寝込み、重量の増した感がある瑛汰を抱き、丸善に入った。買おうかな、と思った本が数冊あった。あ、いかん。伸ばしかけた手を引っ込めた。財布には2000円しか入っていない。朝方は9000円はいっていたのだが、先ほど電子レンジをレジに運んだら、妻が

 「銀行からお金をおろすのを忘れたのよ」

 と突然言いだし、仕方なく、大枚7000円を放り出したのだ。私には欲しい本を買うだけの資力がない。

 やむなく、フードコートに戻った。ベンチで待つしかないと覚悟を固めたのである。ところが、ベンチが空いていない。アイスクリームを嘗める品性のないガキ、何の用事があるのか分からない老人、たこ焼きを頬ばっている親子連れ。先ほどまでは確かに空いていたのに、座ろうと思って戻ってくると、すべてoccupiedなのだ。瑛汰を抱いたまま立っているしかない。
 腕の中で、瑛汰が一段と重くなった。子供は寝ている間に体重が増えるのだろうか?

 5分。誰も立たない。10分、どいつも動かない。こいつら、そんなに暇なのか? さっさと買い物すればいいじゃないか。悪態をつく。ただし、心の中で。誰から見ても紳士に見える私は、見る人の期待を裏切らない。行動は自制するしかない。紳士と見られるのも、辛いものではある。

 20分。やっと席が空いた。この席だけは確保する。素早く歩み寄り、腰を下ろした。私の左肩に首を預けて寝入っている瑛汰を降ろし、両腕で抱きかかえる。体重の大半は我が足にかかるから、最も負担の少ない姿勢である。さて、これでよい。では、書店で拾ってきた山本周五郎の作品一覧でも見てみるか。

 「お父さん、行こうよ」

 2ページも見ないうちに、娘の声が聞こえた。待てよ、いま座ったばかりだ。腕が痛い。腰もはっている。これから車に戻るには、再び瑛汰を抱き、腰と腕に負担をかけながら歩くしかないではないか。少しは、私の腕と腰に配慮してくれてもいいのではないか?
 胸の内で毒づく。だが、男たるもの、泣き言は禁じ手だ。何かないか、いい手は……。
 あった!

 「だって、ユニクロにいくんだろ?」

 と妻に言った。昨日娘に(昨日も、次女と瑛汰は我が家にいた)、ユニクロで買いたいものがあるからラゾーナ川崎プラザに行くと、妻は話していた。それが記憶にあった。なのに、目の前にいる2人はユニクロの袋を持っていない。まだ、買い物が残っているはずなのだ。

 「ああ、いいの、今日は」


 妻が言った。
 人が人の心を読む。そんなことができるとは、私も思っていない。私の心がすべて読まれては、おちおち生きていけない。私だって、人に知られては困る秘密を抱えて生きている普通の人間だ。
 でも、今日だけは読んで欲しかった。せめてあと5分、ベンチに座っていたかった。

 「ああ、そう」

 私は意を決して立ち上がって。両腕で抱いていた瑛汰を、再びだっこスタイルに戻した。
 駐車場に向かって1歩を踏み出した。男は黙ってサッポロビール、なのである。ま、私の場合はエビスビールだが。

 いま時刻は11時13分。昨日から今日にかけてWOWOWでやったディズニー特集を録画、DVDにダビングする作業をしながら、この原稿を書いている。DVDは、四日市にいる啓樹に送ってやるためである。
 妻は先ほど寝た。電気も消えた。寝る前、まだ台所に立っているときに言った。

 「おい、電子レンジで何か温めてみろよ」

 電子レンジは、本日の労働を通じて我が家にやってきた、ほぼ唯一のものである。いわば、私の今日は電子レンジのためにあった。それがちゃんと動くかどうかは、今日のうちに確かめたい。一日の労働が無駄ではなかったことを確かめたい。

 「あ、いいのよ。明日使ってみるから。それまではいいの」

 どうやら、生きていくとは、このようなことらしい。

 右腕の、肘関節の上下の筋肉が痛い。首筋から、肩胛骨と背骨の間にある筋肉にかけてはりがある。
 近く、マッサージに行かねばなるまい。
 私もまもなく寝る予定である。

 

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