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 2007年1月17日 危ないオヤジ

 「それがさ、覚えてるらしいのよ」

 今朝、突然妻の言葉がやってきた。我が妻の口から出る言葉は、いつも完成途上にある。短い言葉による会話はある共通理解領域があって初めて成立するのだが、彼女はそれを無視する。自分の頭の中にある共通理解領域は、私の頭の中にも、当然存在すると信じて疑わない。
 いくら長年夫婦をやっていても、この言葉だけでその前提となる理解領域を彼女と共有できるはずはない。

 「誰が、何を覚えているんだ?」

 と聞きただして、初めて全貌が見えてきた。それによると、昨日、四日市に住む娘から電話があった。四日市は、年末から年始にかけて我が家を混乱に陥れた啓樹の家である。「覚えている」の主語が啓樹であることがやっと見えてきた。

 「パズルをしながら、『ボスとやったパズル』って言うらしいのよ」

 啓樹に46ピースのパズルを買い与えたことは、「年賀」で書いた。あの日はまだ1人では完成できなかったが、我が家を去るころには誰の手も借りずに46のピースを組み合わせることができるようになった。
 そうか、四日市に帰ってもまだパズルにはまっているか。それも、私と遊んだことまで記憶しているとは。
 啓樹は本日で2歳1ヶ月と3日。幼児の記憶力とは驚くべきものである。

 「でね、ミカンを食べると言うらしいの。『ババとミカン食べた』って」

 そうか、私との記憶は知的ゲームにあり、我が妻との記憶は食い物にある。
 幼児とは、実に正確に対象の本性を見抜くものである。

 「でね、アンパンマンドライブに乗ると、『ボス、危ない!』って言うんだってよ」

 ボス、危ない……。

 この話をご理解頂くには、多少の解説がいる。

 まず、アンパンマンドライブとは、アンパンマンのキャラクターを使った模擬自動車である。車輪はなく、従って動かないが、ハンドル、シフトレバー、ウインカーレバー、アクセル、ブレーキなどが備わっており、電池で始動音、エンジン音も出るため、運転気分が味わえる。四日市のトイザらスで見た啓樹がその場を動かなくなったという報告を受けて、昨年の初夏、四日市に出向いたおりに買い与えた。いまだにお気に入りの玩具らしい。

 「ボス、危ない!」は最近のことだ。年末から年始にかけての滞在中、啓樹とその母を乗せて、近くに住む次女の家まで送ったことがある。信号のあるT字路を曲がった時、助手席で娘に抱かれていた啓樹が叫んだのである。

 「ボス、危ない!」

 私は安全運転を旨とする。愛車がおシャカになった事故以来は、なおさら慎重になった。運転免許はゴールドだし、いま我が愛車がドック入りしているのも、原因を作ったのは次女である。断じて私ではない。
 なのに、危ない?

 私は安全に左折した。省略したのはブレーキである。そう、私はブレーキを踏まずとも安全に左折できると判断し、その判断に従ったのである。そして、安全に左折し終えた。
 そりゃあ、 ブレーキを踏んで充分に減速した上で左折するのに比べれば、多少体が振られるのは致し方ない物理現象である。私のせいではない。
 なのに啓樹は、それを危ないと感じた。まあ、2歳になったばかりの幼児の感受性である。いくらか誤差があっても、誰も責めるわけにはいかない。

 が、自分でアンパンマンドライブのハンドルを握りながら、

 「ボス、危ない!」

 か。模擬自動車のハンドルを握ると、あの時の記憶がまざまざと蘇るのか。ふむ。

 私は、どうやら危ないオヤジとして記憶されてしまったようである。

 

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