グルメに行くばい! 第7回 :年増女の味

 前回、キャベツの食べ方を紹介した。先週末、我が家の夕食にキャベツが出た。畏友「カルロス」風のタレが付いて。
 どうやら、愚妻も読んでいるらしい。迂闊なことは書けない。油断をすると身の破滅、とまではいかなくても、家庭争議の元である。
 筆禍は何としてでも避けねばならない。

 愚妻以外の読者の皆様へ。
 その分を割り引いてお読みください。

 さて、今回から、私の居住地は福岡を離れる。就職に伴うものである。

 就職先の会社の人事に呼び出された。担当員は、私を見ると言った。

 「安堂さんの任地が決まりました。『つ』です」

 「はあ、『つ』ですか。『つ』って、どこでしたかねえ。なんか、聞いたような気もするのですが……」

 そう、確かに、「県庁所在地で、日本で一番短い都市名」とかなんとか、子供のころに読んだ雑誌のクイズに出ていたような記憶があった。

 「三重県の県庁所在地ですよ」

 「ああ、そうですか。ところで、三重県って、どこでしたっけ?」

 「どこって……、うーん、伊勢神宮があったり、伊勢・志摩国立公園があったり、真珠で有名な英虞(あご)湾があったりで、紀伊半島の東半分というか……」

 「ああ、そうですか」

 と答えたものの、まだピンとこない。とにかく、その年まで、九州、それも福岡県以外に住んだことがないのだ。
 おまけに、大学は日本史と世界史で受験した。日本地理なんて、日本地図なんて、頭に残っているはずがない。

 

   

(余談)
日本地図が頭に残っていなかったのは、私だけの特種現象かもしれないが……。

 

 「で、どうやって行ったらいいんでしょう?」

 「はあ? そうですねえ。名古屋で新幹線を降りて、近鉄の特急に乗り換えると、1時間ほどで着きますよ」

 名古屋駅で近鉄特急に乗りかえた。指定席で、おしぼりが出てきた。
 住み慣れた福岡の西鉄は、特急に乗っても指定席はない。早めに行って並べば座れるが、おおむね立ちっぱなしである。無論、おしぼりなんて出るはずがない。
 世の中は広い。同じ特急と呼ばれている乗り物に、これだけの差がある。地域性の違いをひしひしと感じながら、津に着いた。

 

   

(追記)
近鉄の特急に乗るには特急券がいる。西鉄の特急はいらない。つまり、安い。これだけは、西鉄の名誉のために書き加えておかなければならない。
話は変わるが、西鉄は、日本プロ野球史上最高の球団であった西鉄ライオンズを持っていた会社である。三原監督の下、稲尾が投げて、中西、豊田が打って、捕手には和田と日比野、二塁は仰木が固め……。なにしろ、日本シリーズで、あの憎っくき読売ジャイアンツを3連覇した夢の球団ですぞ。しかも、3連敗したあと4連勝して日本一になったこともある。稲尾なんか、42勝14敗なんてシーズン記録を残している。2試合に1試合、勝敗に関係するところで投げていたのであります。
4日、5日の休養をとってマウンドに上がる今の投手なんて、目じゃないのであります。
といっても、野球が分かり始めたのは、たぶん小学校に通うようになってから。まだ物事がよく分かっていない幼きころ、親父がラジオで中継を聞きながら、
「いま、西鉄電車が野球ばしとっとぞ」
と私に向かって説明したことがある。
「えっ、電車が野球をする。電車がどうやってバットを持つのだろう。どうやって球を投げるのだろう……」
電車の車両がグラウンドに出て、グローブをはめてバットを振る姿がどうしても思い浮かばず、しばらく悩んだ。
嘘のような本当の話である。
当時ホークスは「南海ホークス」といい、西鉄ライオンズのライバル球団であった。杉浦というすごい投手がいて、1シーズンの成績が38勝4敗という信じられないような記録を残した。西鉄命の私は、ホークスが嫌いであった。
それが今は、ダイエーホークスと呼び名を変え、福岡にフランチャイズを置く。ホークスを応援しろって言われたってなあ……。

 

 津は伊勢湾に面した街だ。つまり、海と隣あわせである。海の幸に恵まれた福岡から越してきて、この町でも美味しい魚が食べられるはずだと信じて疑わなかった。

 「いいところに決まった」

 てなもんである。

 数カ月たった。なんだか、期待が裏切られているような気がしてきた。愚妻に聞いた。

 「何となく魚が美味くないんだけど、うちって、いい魚を買えないような経済状態なのか?」

 「ここって、いい魚を売ってないのよ」

 海のそばの街で、有名な漁港がたくさんある県の県庁所在地で、いい魚が手に入らない?!

 

   

(あと知恵)
いろんな人に聞いてみた。なるほど、愚妻の判断は間違ってなかった。
ことは、単純な経済原則である。
地元の港に揚がった魚は、一番高く売れる市場を探す。一番高く売れるのは、東京の築地である。従って、一番いい魚は東京に行く。2番手は大阪に行く。3番手は名古屋に行く。
「津に来る魚は?」
「名古屋にも出せないのが、津に来るのよ」
漁協関係者の話である。

 

 仕事は夜が遅かった。夕食はほとんど店屋物だった。

 夕方食事をし、遅くなるとほぼ毎日、「三宅」というおでん屋さんに出かけて酒を飲んだ。この店の隣に、いまでいう「ソープランド」があった。確か、「徳川」といった。ソープの入り口の前を素通りし、のれんをかき分けて入るのである。のれんをかき分けると、いつも仲間がいた。

 

 

(余談)
念のためだが、間違えて、隣のソープランド、当時はトルコ風呂といったが、そこに入ったことはない。

 

 三宅に行かない日は午前0時を過ぎて自宅に帰り、このころはMiles Davis「Kind of Blue」を聞きながらビールを飲み、夜食を食べた。1日4食の暮らしだった。

 若さの特権である。
 そんな食生活をしながら、体型はちっとも変化しなかった。
 身長182cm体重72kg〜73kgウエスト79cmパンツの股下82.5cm実に理想的なプロポーションである。銀幕のスターになってもおかしくない。
 休日に汗を流して調整したわけでもない。仕事をして、飲んで、食って、寝る。ごく普通の暮らしをしながら、それでも、身体の形が少しも変わらなかった。
 現代の奇跡といえる。

 それはいいとして、こんな暮らしをしていて「グルメ」にたどり着けるはずはない。

 生まれつき、敏感な味覚を持っている人というのは、確かにいる。
 畏友「カルロス」は、10歳前後から

 「美味(うま)かもんと美味(うも)なかもんのはっきり分かりよった」
 (邦訳:美味しいものもと美味しくないものがはっきり分かっていた)

 と自己申告している。ヤツは、優れた舌を持って生まれてきたセレブリティである。
 見かけは田舎のオッさんだが。

 逆に、見かけはシティボーイの私は、味覚は並、あるいは、お袋の料理を食べ続けるしかなかったため、並以下であった。
 つまり、味に関しては鈍才なのである。
 鈍才が、並、あるいは並以上人間と肩を並べるには、努力するしかない。経験を積み重ねる。「美味しい」と言われるものを食べて、感覚を研ぎ澄ますのである。

 

 

(余談)
無論、身体生理学的な面も考慮する必要がある。
栄養学によると、ミネラルの一種である亜鉛の摂取不足は味覚の異常を招く。
どこかのテレビで、その実験をした番組を見たことがある。
医学部の学生を使い、砂糖水をどこまで薄めると「甘さ」を感じ取れなくなるかという実験だった。
亜鉛の摂取量が充分な学生たちは、相当薄くしても感じ取れた。亜鉛不足の学生たちは、かなり早い段階から甘さを感じなくなった。
栄養バランスがとれた身体でいないと、美味しいものを美味しいと感じ取ることが難しくなるのだ。
ちなみに。
亜鉛の必要量は、1日に15mgから30mg。亜鉛の不足は免疫力の低下を招き、前立腺の障害も引き起こす。また、腎臓にも不可欠である。
1日に1mg不足すると、6カ月でインポテンツになる。回復には、毎日余分に30mg採り続け、18週から20週かかる。
と、私の読んだ本に書いてあった。
恐ろしいことである。

 

 いや、当時はそんな意識も知識もなかった。グルメという言葉も知らなかった。
 津で暮らしていて、たまには美味しいものを食べたいという仲間に、

 「たまには美味しいものを食べに行こうよ」

 と誘われ、

 「いいね」

 と応じていただけである。

 最初の誘いは、鳥羽行きであった。

 「鳥羽の先の方にさ、民宿みたいなところがあって、美味い魚を食べさせてくれるんだわ。伊勢エビの刺身も出るんだわ。しかも、びっくりするほど安いのよ。行こうよ」

 こんないい話を断るほどの根性は、持ち合わせていなかった。
 次の休日、車を連ねて松阪を過ぎ、伊勢を通って鳥羽市に入り、パールロードを走った。快適なドライブである。

 パールロードを離れ、曲がりくねった狭い道を海に向かって走っていると、

 「ここだよ、ここ!」

 と声がかかった。目的地に到着したらしい。確か、「国崎荘」といった。

 座敷に通された。広々としているが、あまり綺麗ではない。それぐらいは我慢の範囲内である。なにしろ、安く、とびっきり新鮮な海の幸を食べることができるという触れ込みなのである。

 20分ほど待っただろうか。待ちに待ったご馳走が次々に運ばれてきた。

 ある! ある!
 伊勢エビ様のご登場だ。生まれて初めてのご対面である。
 しかもこの伊勢エビ様、活き作りの刺身にしてある。薄いピンク色をした半透明の身が、殻の上に盛ってある。ヒゲが、まだぴくぴく動いてる!
 横にいらっしゃるのは黒鯛様ではないか。これも活き作りで、まだピチピチ動いていらっしゃる。ちょいと、そんな無念そうな目つきをするのではありませんよ! これから美味しく食べてさしあげますから!
 隣はハマチ様? これも美味そうですねえ。
 えーっ、まだ出てくるの?
 焼き物?
 なんだって? 伊勢エビ様は、頭の部分を使って、あとでみそ汁にしてくれるって!?
 へーっ、そんな食べ方をするの。
 あれっ、小さなエビ様がはねてるよ。これが車エビ様っていうの! 生きたまま食べるって?!

 海の幸が目白押しである。これでもか、これでもかと出てくる。車を運転して帰らなければならないから酒やビールが飲めないのは残念だが、仕方がない。でも、美味いなー!

 

 

(余談)
食べ物の話を書くときに、「美味い」という言葉は禁句だという。
美味いと言われたって、読者には何の情報も伝わらない。「美味い」という言葉を使わずに美味さを伝えて初めて、読者は美味さを理解できる、というのである。
正論である。その通りである。
が、あえてここでは、「美味い」という言葉を使った。
食べたものが多すぎて、書き分けるのが面倒だからである。
許されたし。
いや、言語能力の問題かな?

(余談追加)
それに、実は伊勢エビの刺身は、それほど美味しいものとは思わなかった。
「ふーん、これが伊勢エビの刺身か。味は淡泊で、プリンプリンしながらねっとりと歯にからみつくような食感だけど、これって美味しいのかなあ」
というのが正直な感想だった。
いまでも、伊勢エビは火を通した方が美味しいと思う。焼いたり蒸したりするのだ。火を通すと、何となく頼りなかった味が締まり、実にコクのある味になる。余分な水分が出るからだろう。
エビ、蟹などの甲殻類は、火を通すことで味が3ランクぐらい上がると思う。

 

 最初は、職場の仲間と出かけた。
 2度目は、家族を連れて職場の仲間と出かけた。
 2度とも、心から満足した。

 秋の一日、三重県名張市にある「赤目四十八滝」に、職場の仲間とハイキングに行った。みんな家族連れである。「日本の滝百選、森百選」にも選ばれた景勝地で、天然記念物オオサンショウウオでも有名である。

 みんなでワイワイ言いながら、1〜2時間ほどかけて滝巡りを楽しんだのだが、今回は観光案内ではない。
 テーマは食い物である。

 滝巡りを楽しんだ我々一行は、その足で上野市に向かった。俳聖松尾芭蕉の生誕地であり、忍者屋敷もある。荒木又右衛門が仇討ちした「鍵屋の辻」もここにある。町中には白壁の土塀がたくさん残り、江戸時代の面影を偲ばせる。しっとりした美しい町だ。

 いや、目的は江戸情緒に浸ることではない。メシである。

 この町に「金谷」というお肉屋さんがある。松阪牛と並ぶ味を誇る伊賀牛が食べられるのだという。

 「礼人君、伊賀牛が有名になった切っ掛けを知ってるかね?」

 突然そんなことを聞かれたって、知るわけがない。自慢じゃないが、伊賀牛という言葉を聞くのも、今日が初めてなのだ。

 「伊賀牛を有名にしたのは、作家の池波正太郎でねえ。週刊朝日に『松阪牛が年増の味なら、伊賀牛は処女の味である』と書いたんだよ。それでたちどころに有名になった」

 先輩、ペダンチックにおなりになるのも結構でございますが、ここに、伊賀牛を知らない人間がいるのをご承知なのでしょうか? 知らない人間に向かって「有名」だっていわれたって、聞く方にしてみれば、

 「君は無知だ」

 と言われているようなものでございます。もう少し、この、配慮というか、思いやりというか、優しさというか、そういうものはお持ち合わせではないのでしょうか……。

 と言いたかった。言えなかった。心にしまった。

 

 

(確認)
ここまで書いて、池波正太郎は、本当にそんなことを書いたのかな? と、まっとうな疑問を持った。
だって、いくらグルメで知られた作家だからとはいえ、週刊誌に、ちょろっとキャッチフレーズを書くとたちまちブランドができあがるなんて、あまりにも安易ではないか?
Googleで検索した。
「牛肉が運ばれてきた。
 赤い肉の色に、うすく靄がかかっている。
 鮮烈な松坂牛の肉の色とはちがう。
 松坂の牛肉が丹誠を込めて飼育された処女なら、
 こちらの伊賀牛はこってりとあぶらが乗った年増女である」
と、『池波正太郎の食卓』という本にでてくるとあった。
そうか、最初に出てきたのが週刊誌だったかどうかはともかく、池波正太郎が書いたことは間違いなさそうだ。
ん、ちょっと待て!
年増処女じゃないの!
そんな……。
じゃあ、何かい。ついさっきまで、おれは「年増」を「処女」だと思い込まされていたってわけかい!
怒るで、ほんま!

(思索)
牛肉は食べるためにある。
その牛肉を「処女」と「年増」で例えてあるということは、「処女」と「年増」の間に、味の違いがなければならないことになる。
「丹誠を込めて飼育された処女」の味って?
「こってりとあぶらが乗った年増」の味って?

分かるような、分からないような。
そもそもブラインドテストをして、
「あ、あなたはこれは処女ですね」
なんて判断ができて初めて客観的な根拠があるということになるわけだけれども、ねえ、あなた、自信を持って判断できます?
作家って、こんな曖昧なことを書く職業なのだろうか?
曖昧な表現を「文学的」というのであろうか?
で、私は?
ふむ、やっぱり年増女年増の味の方がいいなあ……。

 

 2階にあがり、我が家族は2人前頼んだ。1人前は私が食べる。あと1人前は、愚妻と長男が食べる。亭主と亭主以外で、食べるものにも差を付ける。これが世の中の秩序の基礎なのである。

 

 

(付け足し)
書き忘れていたが、この会社に就職する直前、私には長男が誕生した。辛抱が足りないヤツで、あと3週間ほど愚妻のお腹にとどまっていれば会社から祝い金がもらえたのに、出てくるのが早すぎたため、どこからも、何ももらえなかった。

 

 料理はすき焼きである。運ばれてきた肉を見て、心底驚いた。
 本当に綺麗な霜降りなのである。赤い身の中に、白い脂肪層が縦横に走っている。脂肪層はどこか1箇所に固まるのではなく、全体に平均していて、見ていてもほれぼれするほど美しい。

 鍋に入れる。

 「はい、もうよろしいですよ。煮すぎるとお肉が固くなりますから、早く召し上がってください」

 仲居さんにお尻を押されるようにして入れたばかりの肉を引き上げ、卵にひたして口に運ぶ。
 柔らかい。我が家で時折食べる牛肉は、かなり力を込めて噛まないとかみ切れない。ところがこれは、軽く噛めばスッ、スッという感じで切れていく。
 舌触りがシルキーで、実に心地いい。
 なにの、しっかりと肉の味がある。脂肪層と一緒になってほんのりとした甘みまである。それがすき焼きのタレと一体となり、噛むたびに美味しさが口の中に広がる。いつまでも噛んでいたい。飲み下すのが惜しい。
 至福の時だ。

 一切れ、また一切れと、誰も急かさないのに次々に口に運ぶ。箸がとめられないのだ。
 かくして、あっという間にお肉はなくなった。お肉を追加注文したかったが、誰も言い出さなかった。ま、全員、それなりに財布への配慮を忘れなかったのだろう。

 「年増」の味堪能した。

 

 津で、食べ物の話となると、もう一つ書いておかなければならないことがある。職場の上司Mのことである。

 事務所には冷蔵庫が置いてあった。全員が使うために置いてある冷蔵庫である。だがMは、自分の食品をその冷蔵庫にいれて、ほとんど占拠していた。
 ま、人間が3人集まると上下関係ができる。ボランティアグループでも権力争いが起きる。上に立った人間は、何かにつけて威張りたがる。人間の悲しい性である。

 実るほど

 なんてのは、私みたいなごく一部の特種な人間にしか当てはまらない。
 従って、職場の冷蔵庫が上司の独占物になる程度のことは様々な職場でも起きていることだろう。
 違うのはこのあとである。

 ある日、先輩のUが冷蔵庫のドアを開けた。冷やして飲もうと思って入れておいた牛乳を取り出すためだ。
 ドアを開けた瞬間、何かが床に落ちた。落ちただけならよかったが、落ちた衝撃で瓶が割れてしまった。マーマレードの瓶だった。
 拾い上げてみると、蓋に「M」と書いてある。Mは、全員共用の冷蔵庫に自分のものを入れるとき、入れるものに署名をしていたらしい。

 「びっくりしたよ、食パンの袋に『M』って書いてあるんだもんな」

 という証言もある。
 ま、極めてMらしい行動であると全員で確認した。
 で、先輩Uは、

 「しまった!」

 と思った。
 客観的に見れば、非は、全員が使う冷蔵庫の、ドアを開けた瞬間に落ちる場所に、落ちたら割れるであろうガラス瓶に入ったマーマレードを入れたMにある。先輩Uに落ち度はほとんどない。
 だが、先輩Uは、自分の所有物に署名を入れるMの性格を知悉していた。放っておけば何が起きるかも想像できた。

 翌日、先輩Uは朝一番に市内のデパートに出かけ、一番高価なマーマレードを買ってきて冷蔵庫に入れておいた。そうでもしないと、何を言われるか分からない。一番高いものを買っておけば、文句までは言われないだろうと考えた。

 夕方、Mが事務所に顔を出し、冷蔵庫を開けた。

 「ん?! 俺のマーマレード、誰か知らんけ?」

 大声を出すMの前に、先輩Uは進み出ると、

 「実は」

 と前日の話と、その後の処置を説明した。
 話を聞いたMは

 「そうか」

 というと、先輩Uが買ってきたマーマレードを眺めて、言った。

 「なんやこれ、えらい安物みたいやな。俺のは高級品だったんやでえ」

 私は、こんな上司の下、津市で3年半を過ごした。

 

 ここまで来て、さて今回のレシピはと考えた。原稿を読んでみると、レシピとして掬い上げられるようなものがない!

 困った末、定番は定番として維持するため、定型を崩すことにした。
 今回の原稿と関係ないレシピを紹介する。

 名前は知らない。畏友「カルロス」に相談した。「マッシュルームのセゴビア風」という名前にすることにした。
 以前、何かの本で読んで作ってみて、なかなか美味しかった。特に、ビールやワインと良くあう。

 材料:マッシュルーム
    ニンニク
    オリーブオイル(エクストラ・バージンに限る)
    塩
    ブラックペッパー
    好みによって、パセリ

    

作り方

 

1,

マッシュルームの石附の部分を切り落とし、丸くなったかさの部分をピザのように4つ、ないし6つに切る。

2,

ニンニクを数片(好きな方は多く、それほどでもない方は少なく)取り出し、包丁の腹で押しつぶした上、みじん切りににする。
3,
フライパンにオリーブオイルをたっぷりめに入れて弱火にかけ、みじん切りしたニンニクを入れる。

4,

弱火のまま加熱し続け、ニンニクのいい香りがするようになったら強火にしてマッシュルームを加え、塩、ブラックペッパーを振りかけてかき混ぜる。

5,

40秒〜50秒加熱したら火を止め、フライパンに蓋をして1分ほど置く。

6,

皿に盛りつけ、そのまま食べても良いが、好みによってパセリのみじん切りなどを振りかける。

 

 以上です。簡単でしょ?
 塩、ブラックペッパーの量は好みで決めてください。大量に汗をかいた日は塩気は強めに、そうでない日は控えめに、が原則です。
 ブラックペッパーの量はお好きなように。私は好きなので、大量に振りかけます。

 この原稿を読んだ畏友「カルロス」から、こんなメールが来た。

 「年増&処女、これは、とても重たいテーマです。御同輩の言う通り、小生も年増好みであります。
しかし、これは齢を重ねて初めて到達出来る境地ではないでしょうか? ワインは、年増&処女が住むといいます。コルクを抜いてすぐは、処女。少し時間が経つと、年増に変わるといいます。
マッシュルームのレシピは、白ワインをフランベするとより香ばしくなります」

 

 

(注)
フランベ=肉料理やデザートにリキュール類をかけて火をつけ、アルコール分をとばして香りをつけたもの。

 

 簡単に短時間でできるのに、びっくりするほど美味しい料理ができます。お試しください。

 


【初出2003年8月29日】
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